2016年12月20日火曜日

「謎のヌード クラーナハの誘惑」(日曜美術館2016/12/18放送)メモ 《聖カタリナの殉教》 《マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラ》 《聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ》 《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》 《ヴィーナス》 《アダムとイブ(堕罪)》 《正義の寓意》 三つの《ルクレティア》  《不釣り合いなカップル》 《ホロフェルネスの首を持つユディト》

「謎のヌード クラーナハの誘惑」(日曜美術館2016/12/18放送)メモ


ドイツの首都ベルリンから南西に90キロの小さな都市ヴィッテンベルグ。
16世紀ルカス・クラーナハはこの地で画家として活躍しました。

《聖カタリナの殉教》
30代で宮廷画家になった頃の作品
力強いタッチがドラマチックな空間を作り上げている。
クラーナハの類まれな才能がうかがい知れる作品。

■クラーナハがヌードを描いた理由
クラーナハの時代、ヨーロッパ中が混乱のただ中にあった。
そのきっかけを作ったのがマルティン・ルター、宗教改革の嵐を起こした人物。

16世紀、時の教皇はローマ・カトリック教会の本拠地、サン・ピエトロ大聖堂の大改築を計画する。
それには莫大な資金となる。

そこで発行されたのが「免罪符(贖宥状)」。
これを買えば犯してきた罪の償いが免除されるというもの。
教皇は免罪符の売り上げで建設資金を賄おうとした。

金さえ払えば罪の償いが免れる。
そんな免罪符がドイツでも大々的に売り出される。
ヴィッテンベルグで司祭をしていたルターは猛然とそれに異を唱えた。

ドイツ中が激しい対立の渦に巻き込まれ、血みどろの戦いが繰り広げられた。
更に、争いはヨーロッパ中に広がり、実に100年以上続いた。

その激動の時代をクラーナハはどうくぐり抜けたのだろうか?

《マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラ》
クラーナハはルターとは非常に親しい間柄であった。
ルターと妻になるカタリナ・フォン・ボラの結婚の立会人にもなっているし、ルターもクラーナハの子どもの名付け親になっている。
クラーナハはルターの肖像画を何枚も描いた。
ルターがドイツ語に翻訳した聖書の挿絵も手がける。

《聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ》
その一方で、クラーナハは商売人でもあり、カトリック勢力側の人たちともうまくつきあっていた。
時には、ルターと対立するカトリック教会からも注文を受けていた。
厳しい時代状況の中、クラーナハは柔軟に立ち振る舞い、自らの才能を発揮し続けた。

しかし、それでも創作の場が奪われそうになってくる。
偶像破壊運動が起こり、宗教画や彫刻を不要なものと見做され、クラーナハへの絵画の注文は激減した。

その時、クラーナハは今までとは全く違うジャンルに活路を見出した。
それがヌードだった。

ヌードはイタリアルネサンスにあったが、ドイツにはなかった。
だから欲しがられたという側面もあった。

クラーナハは神話をモチーフとした裸体がを次々と描いた。

《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》
左には不安な表情のキューピッドが描かれている。手にはもぎ取った蜂の巣。
隣には透明のヴェールを持った母ヴィーナス。

右上には文字があり・・・
「キューピッドは蜂の巣から蜜を盗もうとしたが、蜂は針でその指を刺した。
つかの間の快楽をむさぼろうとしても、快楽は人に苦痛を与え、害をもたらす」と。
つまり、
こういう言葉を添えることで、これは単なるヌードではなく、道徳性のある絵画だと言うことができた。

《ヴィーナス》
しかし、クラーナハは徐々にそうした説明を省いていく。
これでもまだヴィーナスだと言えるのだろうか?

身体には何もまとわないのに、髪飾りやネックレスなどアクセサリーはつけている。
このことで当時の宮廷の女性のヌードであることは明らか。
ヴィーナスと呼びながら、古代の女神というよりも同時代の女性が服を脱ぎ捨てて、しかもどこかわからない場所、暗い背景で物語の空間からも切り離されて立っている。
非常に挑発的で、フェティッシュで、きわどい美学になっている。

クラーナハがたどり着いたのは、見るものの心をざわつかせるすこし危ないヌードの世界だった。
《アダムとイブ(堕罪)》
イブがアダムの方に手をかけて・・・

15世紀~16世紀、イタリアでは数々のヴィーナスが描かれた。どれも、グラマラスな肉体、艶やかな肌の色、おおらかで神々しいヴィーナス。

しかし、これとは全く異なるヴィーナスがアルプスを越えた北の地で生まれている。
ほぼ同じ時期に描かれたのに、ずいぶん印象が異なる。

上半身は少女体型、それに対して下半身は成熟した女性という、ちぐはぐ感。
自分の美意識で引いた線、滑らかで優雅なフォルム。
なんともいえない妖艶な感じ。
写実的には描かれていない。
実際の人体とは異なり、デフォルメして描かれた肉体である。

また、透明のヴェール、これを透明にすることで、逆により身体を意識させている。
体を隠すはずのヴェールが逆に見るものを引きつけている。




《正義の寓意》
両手に持つ剣と天秤が見るものの視線を誘う。

三つの《ルクレティア》
挑発的
クラーナハの”変態性”と見る人の”変態性”が共鳴しあう
三つめの《ルクレティア》の左上の窓;彼女が自死に至る原因が描かれていると・・・!



 《不釣り合いなカップル》
クラーナハが好んで描いたテーマ。
神話や聖書によく描かれる題材で、女性の策略や誘惑に引っかかり男性が堕落しどうしようもなくなるというもの。

《ホロフェルネスの首を持つユディト》
旧約聖書外伝に描かれた物語に登場するユディト
敵将ホロフェルネスを倒した女性の英雄。

剣を持ったユディトは冷徹な視線でこちらを見つめている。
首を切られたホロフェルネスは、口を開け目もうつろ、恍惚の表情のようにも見える。



関連過去記事
東京 上野 国立西洋美術館で開催中の 「クラーナハ 五〇〇年後の誘惑」展に行ってきた。 2016-10-20 《ホロフェルネスの首を持つユディト》 《正義の寓意》 《不釣合いなカップル》 《子どもたちを祝福するキリスト》 《マルティン・ルターの肖像》 《泉のニンフ》 《アダムとイブ》 《ロトと娘たち》 レイラ・パズーキによる《正義の寓意》模写90点 / クラーナハ展 危険な香りに誘われて 冷たい視線、独特の裸体・・・新たな美作り出す (『朝日新聞』2016-10-13) / 《泉のニンフ》 透けたベールの意味は (『朝日新聞』2016-11-01美の履歴書) 

ドイツ・ルネサンスの巨匠「クラーナハ展」 ~世界遺産で体感!500年の時空を超える“誘惑”とエロス~ BS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」(2016-12-02)メモ 《聖カタリナの殉教》 《ザクセン公女マリア》 《ヴィーナス》 《泉のニンフ》 《正義の寓意》 《ヘラクルスとオンファレ》 《不釣合いなカップル》 《ホロフェルネスの首を持つユディト》 など






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