誰のための成長戦略か
安倍政権が打ち出した成長戦略は、多くの人々をがっかりさせたようだ。
大胆な構造改革を期待していた海外の投資家も、従来同様の小粒な改革案に失望を隠せない。
6月下旬に米国を訪れたが、アナリストらの間でも、アベノミクスの効果は疑問視されていた。
筆者の印象も同じだ。
アベノミクスのどの矢も、日本経済を再生させることができるとは思えない。
それは大企業や官僚に大きな利益をもたらす一方で、中小企業や労働者には恩恵が及ばず、経済全体を向上させることはできないと考えるからだ。
円安は輸出型大企業の収益を増大させ、インフレ期待の高まりは製品・サービス価格の引き上げを可能にする。
中小企業にとっては、原燃料のコストが上昇する半面、価格転嫁は難しく、収益が圧迫される。
肝心の成長戦略でも、グローバル企業の輩出、国家戦略特区の創設など、大企業に多くの利益をもたらす政策が並ぶが、中小企業が持つ多様性を伸ばそうとする政策はほとんどない。
規制緩和が大企業に大きな利益をもたらすことは、米国の経験が示す通りだ。
この成長戦略は明らかに、大企業を強くし、中小企業を整理縮小しようとしている。
成長戦略はまた、官僚の権限や影響力を強める。
政府が成長産業を選び、資金や人材を投入するからだ。
政治家や官僚の判断が市場メカニズムより優先されることになり、これまで以上に大きな既得権益を生み出す可能性が大きい。
民間支援の様々な組織も官僚の天下りを維持・拡大するためのものだ。
成長戦略は全ての企業や国民のために作られるべきものである。
一部の人のためであってはならない。
(山人)
2013-07-03付け「朝日新聞」経済コラム「経済気象台」
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