2011年2月6日日曜日

樋口一葉日記抄 明治27年(1894)2月2日~22日(22歳) 年始廻りと金策と 着て行く着物がない 「きるべきものゝ塵ほども残らずよその蔵にあづけたれば、・・・」(樋口一葉「塵中日記」)

樋口一葉の日記のご紹介。
一葉は、この頃の日記に「塵中日記」という名を付ける。
先月に引き続き、今月は明治27年2月を。
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竜泉寺町で雑貨・駄菓子を商う一葉一家。
明治27年を迎えて、この年、一葉は22歳となる
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明治27年(1894)2月2日

外出着がなく、年始回りは2月に入ってからになる。
妹のくに子が、一枚の着物の、羽織を重ねる部分を他の生地で継いで、外見上わからないように工夫してくれた。
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○日記
「年始に出づ。
きるべきものゝ塵ほども残らずよその蔵にあづけたれば、仮そめに出んとするものもなし
邦子のからうじて背中と前袖とゑり、さまざまにはぎ合せて羽をりだにきたらましかば、ふとははぎ物とも覚えざる様に、小袖一かさねこしらへ出たり。
これをきて出るに、風ふくごとの心づかひ、ものに似ず。寒風おもてをうちて寒さ堪がたき時ぞともなく、冷汗のみ出るよ。」(「塵中日記」明27・2・2)
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現代語訳
二月二日。年始挨拶に出かける。
着物は全部質に入れてあるので、一寸した外出のためのものもない
邦子が苦心して背中と前袖と襟を色々に継ぎ合わせて、上から羽織を着れば、一寸見ただけでは継ぎ合わせ物とも見えないように小袖を一つ作ってくれた。
これを着て出かけたのですが、風が吹くたびにめくれはしないかと、その気苦労は大変なものでした。
寒風が顔を打ち寒さ厳しい季節だというのに冷汗ばかりが出るのでした。
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○日記
「此月いはふべき金の何方(いづかた)より入るべきあてもなきに、「今日は我が友のうちにてもこしらへ来ん」とて家を出づ。
「さはいヘど、伊東ぬしのもとにはかねてよりの負財も多し、又我心をなごりなく知りたりとも覚えぬ人にかゝる筋のこと度々いふべきにもあらず。
いかにせん」と思ふに、・・・」
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現代語訳
今月はどこからもお金の入る当てがないので、今日は友人の所を訪ね都合してこようと思って家を出る。
そうは言っても、伊東夏子さんには前からの借金がまだ多い。
かといって、私の気持ちをすっかり理解してくれているとも思われない人に、このような話など度々言えるものでもない。
どうしようかと思案の末に、・・・
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○日記
「「かの西村が少なからぬ身代にはらふくるゝを、五円十円の金出させなばいつにても成ぬべし。
我はもとよりこびへつらひて人の恵みをうけんとにはあらず。
いやならばよせかし。
よをくれ竹の二つわりに、さらさらといふてのくべきのみ」とおもふ」
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現代語訳
「あの西村(釧之助)はかなり財産を持って裕福な暮らしをしているのだから、五円十円のお金を出させるとしたら何時でも出せるに違いない。
私は勿論媚びへつらって人から恵みを受けようとしているのではない。
嫌だと思うならばよせばよいのだ。
青竹を二つ割りにするように、あっさりとした気持ちで言ってみるだけのことだ)と思って出かける。」
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かつて樋口家が恩義を与えた西村釧之助には尊大な態度になっている。
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○日記
「(安藤坂の師匠・中島歌子のところに挨拶に行く)
・・・。師君のもの語(がたり)に、「三宅龍子ぬし、家門を起し給ふこゝろ」のよし。
さるは雄次郎君の内政之(の)いとくるしく、たらずがちなるに、例之(の)才女の、かゝる方におもむくこゝろ深く、かくとはおもひたゝれし成るべし。
師は我れにもせちにすゝめ給ふ。
「いかで此折過さず、世に名を出し給はずや。発会(はつくわい)当日の諸入用(ものいり)及びすべてのわづらひは、憂ふるべからず。
何方よりも何共(なんとも)なるべく、かへりては利益のあるべし」と、いとよくすゝめ給ふ。・・・」
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現代語訳

先生の話では三宅花圃さんが塾を開かれる予定とのこと。
ご主人の(三宅雪嶺)雄次郎氏の勝手向きが非常に苦しくいつも不足がちなので、例によって才女のこととて、家計の一助にもと、このことを思いたたれたのでしょう。
先生は私にもしきりに勧めなさる。
「是非この機会をのがさず、あなたも世間に名前をお出しなさい。
発会当日の諸費用、またその他の面倒な事などは心配する必要はないのです。
何処からでも何とかなるものです。
むしろ逆に利益になることですから」
としきりに熱心に勧めなさる。
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事実は、花圃が華族女学校に通う近所の娘数人に「紫式部日記」を教えたことが歌子にとがめられ、看板料を納めてお披露目をするよう求められたもの。
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○日記
「西村にて昼飯。種々(さまざま)ものがたる。
「金子は明日、もやうをつぐべき」よし。」
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現代語訳
西村氏を訪ねて其処でお昼をいただく。
色々と話があり、お金のことは明日都合を知らせるとのこと。
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○日記
「夏子ぬしを訪ふに、家をうりて明日明後日のほどには何方(いづく)へか移られんとて、いとろうがはしかりしが、此中(このうち)にてもの語りす。
夜くるゝまでありて、車をたまはりてかへる。」
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現代語訳
伊東夏子さんを訪ねる。
家を売って明日か明後日には何処かへ引越されるとかでとりこんでおられたが、そんな中でお話する。
夜が更けるまでお邪魔して車をいただいて帰る。
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明治27年(1894)2月17日

二月十七日 平田(禿木)君より状(ふみ)来る。『文学界』の投稿うながし来る也。ほし野君(星野天知)よりも、おなじことにて状来る。
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明治27年(1894)2月18,19日

十八日、十九日、執筆いそがし。小説「花ごもり」四回分二十枚計(ばかり)なる。
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明治27年(1894)2月20日
二十日 清書(きよがき)。午後(ひるすぎ)、平田君にむけ出(いだ)す。
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明治27年(1894)2月22日

二十二日 かみあらひ。
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「★樋口一葉インデックス」 をご参照下さい。
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