東京 北の丸公園(2011-11-25)
*先月、生活保護を受けている人が過去最高の205万人を超えたとの報道があった。
12月3日付け「朝日新聞」「「耕論 貧困をどう生きる」では、
「「205万人」がすべてではない」との静岡大教授布川日佐史さんのインタビュー記事があった。
まず、11月9日付け「朝日新聞」夕刊から
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(見出し)
生活保護最多205万人 7月、前月より8900人増
(記事)
生活保護を受けている人数が「過去最多」になった。
厚生労働省が9日に公表した今年7月の受給者数は、前月より8903人多い205万495人。
通年の平均で最多だった1951年度の204万6646人を上回った。
受給者数が毎月1万人前後のペースで増える傾向にあり、今年度は通年でも最多になる可能性がある。
政府は貧困対策の強化を求められそうだ。
生活保護を受けている世帯数も、前月より6730世帯多い148万6341世帯で、過去最多を更新した。
世帯の種類別で最も多いのは「高齢者」。63万527世帯と、全世帯の42%を占める。
働ける現役世代を含む「その他」は25万1176世帯。リーマン・ショック前の3年前の同月(11万7005世帯)に比べて2倍以上に増えた。仕事が見つからず、生活保護を受けざるを得ない世帯が増えているとみられる。
貧困問題の深刻化を受けて、政府は10月に求職者支援制度を導入した。
失業手当が出ない非正社員だった人らに無料で職業訓練を受けてもらい、収入の少ない人にはその間の生活費として月10万円を支給する。
厚労省は「第2のセーフティーネット(安全網)」と期待するが、雇用情勢は厳しく、どこまで生活の自立に役立つかは未知数だ。
また、東日本大震災で被災した世帯のうち、939世帯が9月までに新たに生活保護を受けている。
今後も増加が見込まれるため、厚労省は実態把握を進めている。
(見出し)
高齢化・不況が拍車 生活保護受給増
(記事)
生活保護制度が始まって約60年。
戦後の経済成長に支えられ、いったん大きく減った受給者数が終戦後の高水準に戻った。
生活保護を取り巻く社会環境や受給者像には変化もみられる。
当初、受給者数は200万人を超えたが、暮らしは豊かになり、次第に減少。
バブル経済を経て、95年度には88万人まで減った。
ただ、これを境に増加に転じる。
高齢化に加え、不況も長期化。
働く世代が職に就きにくくなった。
受給者数は99年度に再び100万人を突破。
その後も増え続け、今年3月には200万台に戻った。
99年度は、受給する約70万世帯のうち「高齢者世帯」は45%で最も多く、働ける人を含む「その他世帯」は7%にすぎなかった。
しかし、10年後の09年度は、約127万の受給世帯のうち高齢者世帯は44%と横ばいなのに対し、その他世帯は14%を占めた。
受給者数が今と同水準だった51年度は、世帯数が約70万だったのに対し、今は140万超と倍増。
身寄りのない高齢者が増え、「最後の安全網」に頼る構図が強まっている。
(有近隆史)
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世代別に見た構造をNHK「生活保護205万人の衝撃」(コチラ)で補足すると・・・
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・・・合わせて148万6000世帯余りのうち、
最も多いのが
▽65歳以上の「高齢者世帯」でおよそ63万世帯と全体の42%を占めています。
高齢化や核家族化に伴い低年金や頼る家族がいない高齢者が生活保護を受けていることがうかがえます。
このほか、
▽けがなどをして働けなくなった「傷病者世帯」が全体の22%、
▽「障害者世帯」が11%、
▽「母子世帯」が8%と続いています。
最近、特に急増しているのは、
▽働く世代を含む「その他の世帯」です。
全体の17%を占める25万世帯余りに上り、10年前と比べると4倍に増えています。
背景には雇用形態が不安定な非正規労働者の増加が挙げられます。
景気の低迷で、収入が少なく、雇用保険の保障が十分でない非正規労働者が仕事を失うと生活保護に頼らざるをえないという状況があるのです。・・・
生活保護にかかる費用の総額は、今年度は3兆4000億円を超える見通しです。
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ここで冒頭の静岡大の布川教授の話になるわけだが、教授の話では205万人は多い数字ではないという。
以下、12月3日付け「朝日新聞」より
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(見出し)
「耕論 貧困をどう生きる」 「205万人」がすべてではない
布川日佐史さん 静岡大教授
(記事)
205万人という数字は、生活保護がある程度は使いやすくなってきて「最後のセーフティーネット」として機能し始めたという面もあります。
就労できる人の申請を法に反して受け付けないできた運用が、ある程度改善されてきました。
「生活に困っているなら生活保護を」となってきているとも言えます。
ただ、貧困はもっと広がっています。
すべての国民を所得順に並べて、真ん中の人の所得の半分(貧困線)に満たない人を指す「相対的貧困率」が16%、2040万人が貧困です。
厚生労働省は、生活保護基準未満で生活している世帯は597万世帯あり、そのうち資産の条件を勘案して生活保護を受ける要件を満たしているのは229万世帯あると試算しています。
今は保護世帯は148万世帯ほど。
205万人は多すぎる数字ではなく、まだ保護を受けられていない人がたくさんいるのです。
生活保護を拡充すると動労意欲が損なわれる、などといったモラルハザードの問題を指摘する意見もあります。
先日の「提言型政策仕分け」は、いかにして3兆円を超える保護費総額を抑えるかという議論で、一面的な意見がほとんどでした。
しかし問題は、貧困が拡大していることなのです。
貧困と向き合い、社会保障の土台である生活保護を拡充する覚悟が求められています。
受給者で高齢者世帯が半分近くを占めるのは、年金が足りないためであって、年金制度の問題。
年金額が減れば、生活保護受給者が増えるのは当然です。
また、医療や介護の自己負担が高いので、払えずに利用を我慢し諦めている人にも対処しなければなりません。
貧困を解決するには、雇用や年金の問題を解決しなければなりません。
今は年間給与300万円以下の低所得層が増え、年収900万円までの中流上層が減っています。
せめて夫婦で計800万円ぐらいを確保できるような労働政策を行わなければなりません。
また、年金も充実させていかないと、生活保護の受給者は減らないでしょう。
貧困線は90年代末は150万円だったのが、今は125万円ほど。
中流層が減り、平均所得も下がっています。
だからと言って、保護水準を下げるのではなく、守るべきラインを議論する必要があります。
生活保護には暗いイメージがあります。
ただ、保護を受けている人がNPOを通じて地域の人の介護や援助をしたり、高齢者が子ども相手に紙芝居をやったりとか、受給者と町づくりを一緒にやろうという自治体もあります。
保護で生活が安定して、社会とのつながりができ、地域の役に立つことが生きがいになる。
目先の財政論で語るだけではなくて、こういう側面を大事にした方がいいと思います。
(聞き手・有近隆史)
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「相対的貧困率 最悪の16%」はコチラ
「非正社員38.7% 昨年、最高を更新」はコチラ
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(ご参考)
ブログ「どこに行く、日本」さんの記事に
「視点・論点 205万人が意味すること(2)課題」と題する、
反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さん
の話があります。
親の経済格差が子の教育格差にストレートに反映する、この貧困の連鎖。
結婚できない若者。
中間層の崩壊が貧困層の増大を招き、少子化に拍車をかけ、財政を圧迫する。
生活保護の問題は、社会のあり方の全体の一環であり、
生活保護の制度疲労問題とは、企業と家族に頼って、現役世代の社会保障を行ってこなかった日本型福祉国家の制度疲労の問題である。
云々
と述べておられる。
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