アメリカの大統領選挙がすぐに近づいた。
「朝日新聞」11月2日にアメリカ在住の映画評論家/コラムニストの町山智浩のインタビュー記事が掲載されていた。
選挙運動の中傷合戦の様子などは割愛して、
オバマ/ロムニーへの評価やアメリカの今と将来をどう見るかなどについて以下ご紹介。
<転載>
(見出し)
消えた救世主幻想
巨費投じ中傷合戦
それでもオバマだ
新自由主義が破綻
気付けば貧乏な国
「知的覇権」に未来
(記事)
(前略)
---4年前、オバマが掲げた「チェンジ」や「イエス ウイ キャン」などのスローガンは日本でも話題になりました。
「米国の映画や小説ではしばしば、白人が危機に陥ると、どこからともなく現れた黒人が窮地を救います。黒人映画監督のスパイク・リーは『白人のご都合主義。マジカル・ニグロだ』と批判しました。イラク戦争で抱えた巨額の負債、リーマン・ショックによる経済的打撃、広がる一方の格差など危機にあった米国に登場したオバマは、救世主に見えたのでしょう」
「しかしチェンジと言ってはみても、医療保険改革法案をやっとこさ通しただけ。富裕層への増税は共和党に阻止されて、実現しないまま支出だけが膨れ上がった。景気刺激や公共事業、苦学生や失業者救済にも十分な公的資金が投入できないため景気回復の速度は鈍い。それでオバマへの幻想は覚めましたね」
---オバマ政権の不評は日本でも伝えられましたが、オハイオやフロリダなどの激戦州の攻防次第、と報道されています。
「オハイオは、金属工業や自動車などの製造業の町ですが、70年代以降は日本に押されて工場が閉鎖され、普段は連邦政府も腐るに任せている。しかし4年に一度だけ候補者は何度も入って、彼らのご機嫌をとる。選挙の時だけ注目される激戦州の有権者によって世界の運命を握る米国の大統領が決まる、というのは奇妙な現実ですね」
---どちらが優勢と見ますか?
「ロムニーは企業買収や経営参画で巨額の利益を得てきた『ハゲタカ』で製造業を潰し、中国の工場に投資して雇用を流出させた張本人。しかも自動車産業が危機の時、『税金で救う必要はない。潰してしまえ』とエッセーに書いたので、オハイオでは不利。『米国民の47%は所得税払わずに福祉に頼ってるから相手にしない』と発言した隠し撮りビデオが発覚して、年金暮らしの老人が多いフロリダでも不利ですね」
---ここまでの選挙戦で、今後の米国の方向性は見えましたか。
「9月の民主党大会で、元大統領のクリントンが『新自由主義経済にもう一度、米国の未来を賭けるのか』という趣旨の演説で会場を沸かせました。新自由主義は80年代から30年近く続きましたが、08年の金融崩壊でついに破綻し、残ったのは大きな格差でした。すでに終わったイデオロギーを継承するロムニーは、歴史に逆行するとクリントンは言いたかったのでしょう。とは言え、オバマもそれに代わる政策を打ち出せていない。4年じゃ無理だろうけど、新しいパラダイムの提示が課題だとわかってるでしょう。僕はやるしかないと思っています」
■ ■
---米国生活15年だそうですが、米国は変わりましたね。
「冷戦終結後の92年、米国の政治学者、フランシス・フクヤマは、著書『歴史の終わり』で民主主義と自由経済が今後のスタンダードとなり、米国に一極化された世界は安定した成熟期に入るだろう、と書きました。僕が渡米した年はクリントンの2期目で、景気は右肩上がり、犯罪件数は史上最低、財政赤字も減って、米国が世界のトップにあることを疑う人はいませんでした」
---・・・
「米国中心の安定した世界など、今では寝言にしか聞こえません。きっかけはやはりブッシュです。アフガンとイラクに攻め込んだが、ゲリラ相手に何年戦っても勝てず、米国一極支配が聞いてあきれる醜態をさらした。国内は金融と不動産が暴走してバブルを膨らませた。結果はご存じの通りです」
「で、気づけばものすごく貧乏な国になっていた。僕が渡米したころは、デパートに行けば家電や家具、日用品の半分は、メード・イン・USAでした。でかくてダサかったけどね。しかし今ではほとんどがアジアとスウェーデン製。米国民の気分は第三世界の人々に近いんじゃないでしょうか。だって自国製品がほとんどないうえに、国債で中国に対して借金抱えているんですから」
「外国に奪われたのは製造業、ブルーカラーの職だけじゃない。米国の主要産業のITもインドや中国にアウトソース(外注)されています。シリコンバレーの管理職が夕方、アジアに仕事を発注して帰れば、眠っている間に優秀なプログラマーがフル回転で働く。米国とアジアは昼夜逆ですから、24時間、作業が止まらない。こんな感じで米国の中流層も職を奪われ始めました」
■ ■
---いずれが大統領になるにしても、米国の将来は暗そうですね。
「圧倒的な軍事力と経済力で世界をリードする時代はもう終わりでしょう。多極化する世界で、米国の再起は『知的覇権』とでもいえるものにかかっていると思います。ローマ帝国のアカデミズムの中心はギリシャで、ギリシャ語が教養人の共通語でした。近代では英国です。名門大学に世界中から学生が集まり、思想や文化を母国に持ち帰った。米国は没落しつつありますが、大学のレベルは依然、世界一です。僕が米国に住み続けるのは娘を米国の大学にいれたいからです」
「僕の地元、バークリー大の学生の半数はアジア系米国人で、全米の留学生70万人以上のうち6割が中国、インドなどアジアからです。米国の科学や経済、政治に占めるアジア系の比率は増大し、米国の考え方を身につけた留学生は帰国して母国のリーダーとなる。米国がアジア化し、アジアが米国化するのです」
---泥沼化する戦争、巨額の財政赤字、社会を覆う大きな格差。もはや日本でも米国の夢を信じる人は、多くない気がします。それでもまだ米国の明日に期待するのですね。
「大学だけでなく、性別も年齢も未既婚も国籍も問わない雇用制度も、世界中から人材を集めます。もともと移民の力で世界一になった国だし。そもそも僕が米国に住み始めた理由は、カミさんが30歳過ぎてこっちの大学に留学して、就職したからです。30過ぎの既婚の新卒、しかも子連れの外国人を採用する大企業は日本にはほぼないですから。日本ではオバマみたいな外国人との間に生まれた人は、まだ首相になれないでしょ」 (聞き手・秋山惣一郎)
<転載おわり>
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