過日、原発事故に関する政府事故調(畑村委員会)の報告が出た。
東電の事故調は論外として、民間の事故調報告はトップバッターとしての新鮮味があったし、二番手の国会事故調は黒川委員長の派手さや再稼動に対するコメントなどで注目を浴びた。
それらに比べると、三番手の政府事故調の報告書は、責任追及はしないとする当初からの調査スタンスもあり、やや地味な感じがした。
事故原因の真実に肉迫しているかといえば、その点ではもの足りない。
かといって被害(および被害者)の実態に迫っているかといえば、それもイマイチだったような気がする。
8月4日付け「朝日新聞」に「原発事故調査を終えて」との題で
政府事故調の委員長代理を務められた柳田邦男さんのインタビューが掲載された。
教わることの多い内容であったし、事故報告書への認識も少し改めた。
記事の後半部分を転載させて戴く。
(段落、改行を施す)
(見出し)
全容解明するには
時間も人も足らぬ
国は調査を続けよ
被害者への想像力
事故対策から欠如
2.5人称の視点を
(記事後半)
---最終報告では、東電や原子力安全・保安院に安全文化が定着していなかった、と指摘しました。
(略)
---例えばどんなことですか。
「東電は08年ごろから、巨大津波の問題について不安を感じ、独自に調査して最大15・7㍍の津波が起きうるという試算が出ました。
危機感を持った担当部長が原発担当の役員に進言したという証言もありますが、10㍍以上の堤防をつくるのに数百億円の費用がかかるため、結果的に『仮の試算にすぎない』として対策は見送られてしまいました。
リスクへの危機感の弱さと、安全対策をコスト意識からためらう企業文化があったと見ることができます」
---東電幹部らを業務上過失致死傷の疑いで刑事告訴したり、株主代表訴訟も提起されたりして、責任追及の動きも出ています。
「事故調査は、事故発生にいたる構造的な問題を明らかにすることで、次の安全対策を提示することを目的にしており、責任追及を目的とはしていません。
背景には『個人を処罰するだけでは巨大システムの事故を防ぐことはできない』という思想があるのです。
結果的に調査結果が責任追及の根拠の一つとして利用されることはやむを得ませんが、事故調査と責任追及はあくまでも別物だと考えています」
■ ■
---「原発事故の最大の問題は、専門家の想像力の欠如」とかねて指摘されています。
「原発を推進してきた専門家、政府、電力会社のすべてに共通するのは、原子力技術への自信過剰です。
それが『安全神話』を浸透させ、万が一の事故に備える発想の芽をつんでしまいました。
自分自身や家族が原発事故によって自宅も仕事も田畑も捨て、いつ戻れるともしれない避難生活を強いられたらどうなるだろうか。
そういう被害者の視点から発想して原発システムと地域防災計画を厳しくチェックし、事故対策を立てれば、違った展開になっていただろうと思うのです」
---「被害者の視点」ですか。
「電力会社や行政の担当者は、システムの中枢部分の安全対策には精力を注ぎます。
それも不完全だったわけですが、周辺住民をどうやって安全に避難させるかといった問題はいわば遠景として軽く見がちです。
『自分や家族が周辺住民だったら』という視点で考えたら、避難方法や事故情報の伝達のあり方などについても真剣に考えるはずです」
---柳田さんと言えば、航空機事故などの取材で主にシステム中枢系のミスの発生原因に注目されていた印象がありますが、どういうことから、周辺領域に関心を持つようになったのですか。
「息子が脳死状態になったことを契機に、『命の人称性』という問題を考えるようになりました。
それまでは理屈のみで『脳死=人の死』と考えていましたが、息子は脳死状態になっても心臓は鼓動するし、体も温かいし、ひげも伸びます。
息子と魂の会話を繰り返している中で、息子の体を死体と考えることはとてもできませんでした。
同じ死でも、自分の死、家族の死、第三者の死ではそれぞれ意味が違うのです。それが『死の人称性』です」
「周辺住民の命を見る官僚や専門家は『三人称の視点』で見ているわけです。
客観性、平等性を重視するので、どうしても乾いた冷たい目で事故や災害を見がちです。
『もしこれが、自分や家族だったら』という被害者側に寄り添う視点があれば、避難計画の策定もより真剣になっていたでしょう。
私は客観性のある三人称と二人称の間の『2・5人称』の視点を提唱しています」
取材を終えて
「死ぬ気でやってますから」という言葉にどきりとした。
委員長代理を引き受けてから作家としての新しい仕事は断り、最終報告に向け翌日の委員会に出す原稿を書くのに睡眠1~2時間という日が続いた。
週末は被災者救援や子どもの心のケアなどの活動に参加しているという。
改めて最終報告を読み返すと、言葉がより強く心に迫ってきた。(山口栄二)
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調査委員会の報告書が出た後の原因究明体制
『2.5人称』で書かれる被害状況まとめ(被害白書)
必要じゃないだろうか?
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