2012年6月23日土曜日

伊方原発の沖合を巨大活断層、中央構造線が走る。 原発の耐震性は?


四国新聞(昨年の記事)
沖合走る中央構造線 伊方原発の耐震は
東日本大震災による福島第1原発の事故を受け、全国の原発で地震への備えに関心が高まっている。四国電力の伊方原発(愛媛県伊方町)でも、すぐ近くの海底を断層が走り、激しい揺れが予想される。電力各社は緊急の安全対策に取り組んでいるが、専門家からは地震が原発に与える影響を抜本的に見直すべきとの声が聞かれる。

地震学者の訴え
「想定規模甘すぎる」 距離近く、強い揺れ瞬時に
 「目の前を走る中央構造線の巨大な活断層が、伊方原発にどういう地震をもたらすのか。福島第1原発の事故を教訓として、見直しの必要性がクローズアップされている」。5月7日、愛媛県砥部町であった講演会。原発の危険性を訴えてきた元京都大原子炉実験所講師の小林圭二さんが警告を発した。
  中央構造線とは関東から九州まで全長1千キロ以上も続く日本最大級の断層だ。そのうち紀伊半島から伊予灘に至る断層は360キロに及ぶ。伊方原発から北側を望んだ海域では、沖合数キロの海底を佐田岬半島と平行して走っている。
  伊方原発を襲う地震で最も怖いのは、東南海・南海地震ではなく、この伊方沖を走る中央構造線の断層による地震。阪神淡路大震災のように、直下型の強烈な揺れが伊方原発を突き上げることになる。
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  四国周辺の断層に詳しい高知大理学部の岡村真教授(地震地質学)によると、伊方沖の断層で起こる地震は、マグニチュード(M)8程度が想定される。発生周期は不明だが、「千数百年に1回の間隔で起こっている」と予測する。
  一方、四国電力は伊方沖の断層のうち、沖合8キロの長さ54キロの断層で発生する地震が、伊方原発への影響が最大になると想定する。地震の規模はM7・8で、揺れの強さを示す加速度は最大413ガルを見込んでいる。
  これに対し、原子炉本体や原子炉格納容器など重要な施設や設備が耐えられる揺れの強さ(基準地震動)は570ガルだ。「原発の耐震は十分に余裕がある」と四電は説明する。過去の地震では芸予地震で64ガルを記録。東南海・南海地震の想定は94ガルで、東海を加えた3連動も対応できる見通しだ。
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  こうした四電の想定は、考え得る最大の地震を本当にカバーできているのか。岡村教授は「四電は地震の揺れを過小評価している」と疑問を投げ掛ける
  一つは数百キロに及ぶ中央構造線のうち、長さ54キロの断層だけ切り出して地震を評価していること。「なぜ54キロなのか、根拠が分からない。最悪の事態に備えるなら360キロ、さらに九州西部まで600キロの断層が一度に活動する地震を想定しなければならない」。断層が360キロに延びると、基準地震動は最低でも1千ガルが必要という。
  実際、想定を超える加速度を記録する事態が続いている。東京電力の柏崎刈羽原発は2007年の新潟県中越沖地震で、想定の2・5倍の揺れを記録。東北電力の女川原発も05年の地震で想定を上回った。
  もう一つは震源と原発の距離の近さだ。岡村教授は「伊方原発は地震の発生とほぼ同時に激しく揺れる。四電は揺れを検知すると、自動的に制御棒を挿入して原子炉を安全に停止できるというが、挿入の前にダメージを受ける可能性はないのか」と懸念する。
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  「想定外をなくすには、最悪のケースに備えるのが基本」として、地震の評価と原発の耐震性を抜本的に見直すよう求める岡村教授に対して、四電は「もっと長い断層による地震の可能性を排除しているわけではない」と説明。地震の評価では360キロ、130キロ、69キロなど断層の長さを複数パターン設定。さらに断層の傾斜角や強い揺れを引き起こす箇所の位置を変えるなどしてシミュレーションした。その結果、長さ54キロの断層による地震が最大と判断したとする。
  福島第1原発の事故後、原発の「安全神話」は崩れさった。安全規制を担う原子力安全・保安院、原子力安全委員会には不信の目が向けられている。定期検査で停止した原発の運転再開をめぐり、地元自治体は国に新しい安全基準を求めるが、従来の「原子力村」で安全基準をまとめるのでは不信は払しょくできない。電力会社が地震対策に取り組み、安全性を訴えても、なかなか説得力を持たないのが実情だ。

メモ
 伊方原発 愛媛県伊方町に立地する四国唯一の原子力発電所。1977年に1号機、82年に2号機、94年に3号機が運転を開始、現在は四国の電力の約4割をまかなう。合計出力は202万2千キロワット。
  国内の商業炉は、原子炉内の水を直接沸騰させてタービンを回す「沸騰水型」と、原子炉内で熱した高温高圧水で放射能を含まない別系統の水を沸騰させる「加圧水型」がある。伊方は加圧水型。福島第1は沸騰水型。

全電源喪失の備え
電源車配備、発電機も増設 四電「あらゆる手打つ」
 「少しでも安全安心につながることは先取りで実施する」。福島第1原発事故直後の3月15日。四国電力の千葉昭社長は緊張した面持ちで愛媛県庁を訪ね、中村知事に伊方原発の安全性向上への取り組みを説明した。翌16日には、自らが委員長を務める東日本大震災対策総合委員会を設置。以後、矢継ぎ早に追加対策を打ち出してきた。
  原発の安全確保は「止める」「冷やす」「閉じ込める」が大原則。福島第1原発は原子炉を止めるまではできたが、「冷やす」段階から制御不能に陥る。津波や揺れによって、すべての電源を失ったことが最大の原因だ。
  原発は電力がなければ運転できない。緊急炉心冷却装置(ECCS)も機能しない。そのため、原子炉が止まった場合、自動的に外部電源に切り替わり、外部電源も途切れると、非常用ディーゼル発電機が起動する仕組みになっている。ただ、電源確保の備えはここまで。福島第1原発のように、すべての電源を長時間失うことは「想定外」だった。
  そこで、四電は全電源喪失後も原子炉の冷却機能を維持できるよう、電源車7台を緊急配備。2012年度までには、発電量が6倍の大型電源車4台も導入する計画だ。さらに外部電源については、現在の7回線より容量は小さいが、近くの亀浦変電所から新たに2回線を引き込む工事にも着手。1~3号機に2基ずつ備えるディーゼル発電機も増設を検討している。
  四電の想定によると、敷地前の断層地震で発生する津波が最も高く4・25メートルと予想。原発は標高10メートルにあるため、これまでは「影響は小さい」としていた。しかし、福島第1原発を襲った巨大津波を踏まえ、重要施設の扉を水密扉にするほか、建物の入り口に防水壁を設置。消防車や電源車は敷地内の高台(標高32メートル)に待機させることにした。
  このほか、冷却機能の要となる海水ポンプは、周辺に防水壁を設け、予備のモーターや仮設ポンプの導入も計画している。
  ソフト対策では、全電源喪失を想定し、電源車を使った防災訓練を実施。愛媛県からの強い要望があった原子力本部の松山市への移転も決断。移転は6月末をめどに完了予定で、これまで以上に地元自治体との連携を強め、対応の迅速化など安全対策に万全を期す方針だ。
  政府は6月7日、新たな対策として、がれきを撤去する重機の配備など5項目の実施を求めるなど、次々に指示を出すが、福島第1原発の事故原因の本格究明には至っていない。原発の安全性の抜本的な見直しはこれからという状況だ。
  四電は「今後も情報収集に努め、さらなる安全確保に向けてあらゆる手を講じたい」としている。
取 材 八塚正太 福岡茂樹 山田明広
(2011年6月12日四国新聞掲載)

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