2012年6月7日木曜日

「大飯原発再稼働を警告する声も-安全性、二の次と懸念」(ウォールストリート・ジャーナル)


ウォールストリート・ジャーナル
大飯原発再稼働を警告する声も-安全性、二の次と懸念
2012年 6月 7日  9:06 JST


 【東京】日本政府が大飯原発の原子炉2基の再稼働を推進しようとする中で、再稼働に批判的な人々や一部の専門家は、安全性対策が二の次になっているのではないか、と警告している。再稼働で今年夏の需要のピーク期を乗り越え、ぜい弱な日本経済の回復を後押ししたいとする思いが優先され過ぎているという主張だ。


(略)


 関電は既に幾つかの安全対策を実施したが、その他の措置はさらに最高4年かかると予想している。例えば、恒久電源の確保、フィルター付きベント(原子炉格納容器内の圧力を下げる際に外部への放射性物質の飛散を抑える排気設備)、高い防波堤、免震司令棟の建設などだ。


 日本の現行の原子力規制当局は、関電が大飯原発の再稼働に向けて十分な措置を講じたとしている。専門家にも、新たな安全対策を決めた結果、何らかの変更が必要になったあとでさえ、原発を運転し続けるのは標準的な手続きであり、フィルター付きベントの設置などは、設置完了までに時間がかかる大プロジェクトだとしている。


 カリフォルニア大学バークレー校のジューンホン・アーン教授(原子力工学)は「こうした是正は通常、優先順位、緊急性、そして資源の入手可能性を勘案した上で実施される。わたしはこれが良いとは考えないが、それが現実だ」と述べ、「米国では、火災の安全性に関連して、30年も前から安全対策上の宿題を抱えている商業原子炉も一部存在する」と指摘した。


 一方、再稼働に批判的な人々の中には、大気など外部環境への放射性物質放出を食い止めるフィルター付きベントの設置を最優先にすべきだと主張している。原子力事故調査委員会の黒川清委員長は4月の公聴会で、なぜこうしたベントの設置を再稼働の条件にしなかったのか理解できないと述べた。関電は2016年まで大飯原発のベント設置を完了できない見通しだ。


 しかし米国原子力協会(ANC)のマイケル・コラディーニ氏は、大飯原発にあるような原子炉にとってフィルター付きベントが有効との証拠はないと指摘。大飯原発ではメルトダウン(炉心溶融)の発生した福島第1原発とは異なる原子炉の技術を使っているからだという。同氏は、日本の電力各社は洪水からの保護や電源確保に集中すべきだと語った。


 福島第1原発事故では、津波が原発を襲い、緊急時に原子炉を冷却するための非常電源を破壊した。津波から原発を守る一つの措置は防波堤を高くすることだ、と専門家は言う。


 関電は既に高さ5メートルの防波堤を構築済みで、この結果、高台にある原発は最大11.4メートルの津波に耐えられると主張している。関電はこの防波堤の高さを14年までに8メートルにする計画だ。


 しかし前出のバークレー校のアーン教授は、福島第1原発を襲った津波は高さ15メートルだったと指摘し、大飯原発は防波堤の高さが引き上げられるまで、このような規模の津波には弱いと述べた。これに対し関電は、大飯原発やその他11基の原子炉が位置する湾を津波が襲った歴史的な記録はほとんどないと述べている。


 東京工業大学教授を今年春退官し、現在はイタリアのポリテクニコ・ディ・ミラノ大学の教授である二ノ方壽氏は、防波堤を高くするよりも、主要な建屋を防水にし、事故発生に備えて従業員を訓練することを最優先課題にすべきだと述べ、その理由として防波堤ではあらゆる洪水から原発を守ることはできないからだと語った。関電は、今年9月から14年までの間に各種の防水措置を完了する方針だ。


 米国の「憂慮する科学者連合」の上級科学者、エドウィン・ライマン氏は、大飯原発を再稼働させる前に、洪水やダムの崩壊、テロリスト攻撃などへの対処法を検討すべきだと述べ、「現在の安全性アプローチが適切か確信できない」と語った。

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