2012年8月8日水曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(23) 「第1章 ショック博士の拷問実験室」(その3)

東京 北の丸公園 2012-08-03
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(23)
 「第1章 ショック博士の拷問実験室」(その3)


デパターニング
患者の「デパターニング」を行なうため、キャメロンは電気ショックを一回ではなく連続して六回まで与える「ページ=ラッセル法」と呼ばれる比較的新しい方法を用いた。
患者の人格が完全に消失していないと判断すると、キャメロンは中枢神経刺激剤と鎮静剤、幻覚剤などを投与して患者の見当識をさらに混乱させた。使われた薬剤は、・・・・。
キャメロンは一九五六年の論文で、これらの薬物が「(患者の)脱抑制をきたし、心的防衛を弱めることができる」と書いている。

精神誘導
「完全なデパターニング」が達成され、初期の人格が十分に消去された段階で、精神誘導が開始される。これは、「あなたは良い母親であり妻で、皆あなたと一緒にいることを楽しいと思っています」などという録音テープをくり返し聞かせることだった。行動主義者であるキャメロンは、患者がこうしたメッセージを吸収すれば、それまでとは違った行動を取るようになると考えたのである。

電気ショックを与えられ、大量の薬物でほとんど植物状態にさせられた患者は、抵抗する術もなく録音されたメッセージを聞かされた。一日一六〜二〇時間、何週間にもわたってただテープを聞き続ける。なかには一〇一日間連続でテープを聞かされた患者もいた。

キャメロンの実験とCIAのプロジェクト
五〇年代半ば、CIAの何人かの研究者がキャメロンの方法に関心を持った。
いわゆる冷戦ヒステリーの始まりにあたるこの時期、CIAは「特殊な尋問技術」について研究する秘密プロジェクトをスタートさせていた。機密解除されたCIAの覚書によれば、このプロジェクトは「従来にはない数々の尋問技術を調査、研究するものであり、そこには「完全隔離」などのような心理的苦痛」や「薬物や化学物質の使用」が含まれていた。当初、このプロジェクトは(ブルーバード)と名づけられ、次に(アーティチョーク)、そして一九五三年には(MKウルトラ)と呼ばれるに至る。その後一〇年間、(MKウルトラ)は、共産主義者あるいは二重スパイの疑いで拘束された者を白状させる新しい方法を探究するため、二五〇〇万ドルを費やし、四四の大学、一二の病院を含む八〇の機関を巻き込んで実施されたのだった。

このプロジェクトに関わったCIAの捜査官は、相手が隠そうとしている情報を引き出す方法についてのアイディアは数多く持っていた。問題はそうした方法をどうやって試すかだった。(ブルーバード)と(アーティチョーク)が実施された最初の数年間の活動は、さながら悲喜劇的なスパイ映画のシーンを思わせるものだった。捜査官同士、互いに催眠術をかけたり、相手の飲み物の中にLSDをそっと混ぜておき、どうなるかを見たり(自殺に至ったケースが少なくとも一件あった)、そして言うまでもなく、拘束されたソ連スパイ容疑者を拷問にかけたりした。

だが、これらはすべて・・・、CIAが求めていた科学的確証を得ることはできなかった
そのためには、多数の人間を使った実験を行なう必要があった。そうした試みもいくつかなされたものの、それには危険が作った。もしCIAがアメリカ国内で危険な薬物を使った実験を行なっているという噂が立てば、プロジェクトそのものが中断に追い込まれかねない。CIAがカナダの研究に目をつけたのには、こうした事情があった。

1951年6月1日モントリオールで3ヶ国会議
両者の関係は一九五一年にまでさかのぼる。この年の六月一日、モントリオールのリッツカールトン・ホテルで三ヵ国の情報機関の代表が集まり、会議を開いたのだ。背景には、西側情報機関の間で共産主義国が戦争捕虜を「洗脳」する方法を発見したのではないかとの懸念が高まっていることがあった。朝鮮戦争中、中国の捕虜になったアメリカ兵が、見かけ上は自ら進んでカメラの前に立ち、資本主義や帝国主義を非難するといったことが、その証拠とされた。この会議に関する機密解除文書によれば、出席者たち(カナダ防衛研究委員会会長オーモンド・ソラント、英国防衛研究政策委員会会長サー・へンリー・ティザード、そしてCIAの代表二人)は、共産主義国がどのようにして捕虜を洗脳し、こうした驚くべき自白をさせているのかについて、西側主要国は緊急に解明する必要があると確信していた。
そのことを踏まえ、まず第一段階として洗脳の効果を知るため「実際のケースに関する臨床研究」を実施すべきだと彼らは考えた。この研究の目的は西側主要国が捕虜に対してマインドコントロールを行なうことではなく、西側の兵士が捕虜にされた際、いかなる強制的手法にも屈しないようにすることだとされた。

(つづく)


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