2017年9月11日月曜日

同盟 どう向き合うか 戦争近づける影も直視して 元中国大使・丹羽宇一郎(『朝日新聞』2017-09-07) / 「北朝鮮問題で日本は戦争に近づくことしかしていない」:元中国大使・丹羽宇一郎氏が鳴らす警鐘 ; 「力対力」では戦争以外の選択肢がなくなる / 傲慢な5大国の「核独占」論 / 核凍結に安倍さんはトランプ氏の説得を / 石油禁輸は「窮鼠」にするだけ / 尖閣問題、泥酔船長はぱっと釈放すべきだった / なぜ現場の大使館の声を聞かなかったのか / 憲法に手を触れるな      


安保考 第1部 同盟とは(下)
同盟 どう向き合うか
戦争近づける影も直視して
元中国大使 丹羽宇一郎
39年生まれ。伊藤忠商事社長を経て、2010~12年に中国大使。尖閣沖の漁船衝突事件や尖閣諸島の国有化問題に対応した。近著に「戦争の大問題」。

 日米同盟によって戦争を未然に防げているのか、それとも同盟がゆえに日本は危険にさらされているのか――。北朝鮮情勢が緊迫するなかで、多くの人たちが考えあぐねている命題だろう。同盟を組む意味はどこにあるのか、そしていまどう向き合えばよいのだろうか。

 冷戦は終わりましたが、その後の米国による覇権も終わりました。一方、中国は世界第2位の経済大国となり、軍事費はこの間、40倍近くになった。世界情勢が変化しているのに、日本はこれまで通り日米同盟強化の一辺倒です。

 沖縄の米軍基地はなぜあるのか。米国を守る盾になるためです。しかし米国のために日本があるわけではない。なぜ日本のために日米同盟が必要なのか考えるべきです。それもなく法律を変え、専守防衛を超え、トコトコついていくだけではいけないと言いたい。

 同盟には光もあれば影もある。同盟の光ばかりを享受できると思い込み、日本は自国の安全保障に思考停止状態になっている。同盟の影、つまり自らも戦争に近づいてしまう部分を考えていない

-----     

 北朝鮮が核実験をしました。しかし金正恩(キムジョンウン)氏に核を放棄しろと言っても、絶対に放棄しないでしょう。生き残る唯一の道が核だと思っているからです。米韓は軍事演習をやったり、貿易を止めたりして、どうするつもりなのか。圧力だけをかけても、出口はない。出口なき戦略の先にあるのは戦争です。

 最近、北朝鮮や中国への強硬論がまかり通っています。危ないことを格好いいことだと思っている。戦争の真実を知るべきです。

 戦時中、空襲に遭いました。防空壕の入り口に焼夷弾が落ち、母が死ぬ思いで火を消した。いま戦争を知らない人が多すぎると思い、体験者を取材し、本にしました。

 戦争の真実とは何か。それは、「狂う」ということです。普通、人は人を殺せません。だから狂うしかない。また、実際には飢えと病気で死んだ人も大勢いました。

 安全保障とは、防衛力を向上させることだと思っている人が多いですが、それは違います。軍事力は安全保障の手段の一つにすぎない。軍事力より外交力、それを実現する国際政治こそが大事です。

 東シナ海の安全保障を議論するなら、中国とどう敵対せず、友好関係を築き、味方に引き入れるかが重要で、国際政治の出番です。

 過去に米国はぎりぎりのところでソ連との戦争を回避しました。それこそ政治家の役割です。

 1962年のキューバ危機。米国のケネディ大統領とソ連のフルシチョフ首相は水面下で何度も交渉し、米国がキューバに侵攻せず、ソ連がキューバからのミサイル撤去で合意。米国はトルコからのミサイル撤去も秘密裏に約束した。核搭載爆撃機の離陸直前でした。ケネディ氏の指導力で軍事専門家の強硬論を抑えることができたと研究者は分析しています。

-----

 中国大使として、習近平(シーチンピン)氏と十数回は会いました。そのたびに「両国は、住所変更できない間柄ですね」と言われました。隣国同士、仲良くするしかない、という含意です。日本の生き残りには中国の14億人の市場が重要です。経済格差や環境汚染など日本がかつて経験した問題に直面する中国には日本の知恵が必要です。

 安倍晋三首相と会談する時、習氏はにこりともしないとメディアは騒ぎます。こっちもしかめっつらしているからでしょう。相手は、自らを映す鏡です。

 尖閣諸島については、帰属の議論を2年間凍結してはどうか。その間に、漁業協定と資源開発を一緒にやったらいい。お互いが損をしない、政治の力で前向きな解決方法を考えてほしい。

 北朝鮮問題の解決については、すべての核保有国が2年間、核開発と使用を一切凍結する。その間に、唯一の被爆国日本が仲介し、米朝、米中で話し合う。これが唯一の道だと私は考えます。

 同盟の意味、特に影の部分が何なのかを考え、戦争には絶対に近づかないようにする。軍事力だけでなく、むしろ国際政治の力で戦争を避ける。それこそが安全保障です。政治家には、冷静で、したたかな交渉を期待したい。

 (聞き手・三輪さち子)
-------------------------------------------------------


(略)

憲法に手を触れるな

ーー 中国は日本が仮想敵国にしているというが、安倍政権は中国が軍事力を拡大しているから、日本もそれに対抗しなければならないという理屈です。

丹羽:言いたいのは、日本は特別な国ということなんです。原爆を二度体験し平和憲法をもっている。その平和憲法下で少なくとも武器輸出は止めてきた。戦争に非常に警戒心をもって、共謀罪なんかもなかった。しかしそれが最近どんどん剥がれてきている。

戦争を知らない大人たちが戦争に近づいたら何が起きるか分からない。これが最も危ないんです。

中国をどんどん仮想敵国にし、なんかあれば中国がやっているからという。それじゃ中国と戦争をやって勝てるか。勝てませんよ。軍事評論家によると、制空権は完全に握られている。北朝鮮にだって勝てない。そうなるとまた「力と力」で、アメリカさん何とかやってくれというのでしょうか。

憲法はものすごく大事です。簡単に手を触れてはならない。グローバル化時代の中で、専守防衛をはっきりさせていく必要があります。もう一度言いますが、戦争に近づかない。これが一番重要です。


0 件のコメント: