先日の「朝日新聞」8月25日の高橋源一郎さんの論壇時評(コチラ)の最後に、
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中国鉄道事故に関して、日本人の感受性の乏しさを論じた藤原帰一のコラムに触れたい。
「日本では起こらない事故だという満足感は見られても、人命を軽視する高速鉄道による痛ましい事故を、自分に降りかかった災難と同じように悼む態度」がこの国ではほとんど見られない、
と藤原は書く。
その底流には根深い中国(だけではない)への蔑視・敵視の感情がある。
ぼくたちの国の底で渦巻く禍々(まがまが)しいもの、それについてはいずれ触れたいと思っている。
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とあった。
しばらく、「禍々(まがまが)し」さって一体なんだろう、と考えてみたいと思う。
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ある角度からの一つの提起があった。
「日経ビジネス」8月29日号の「海外支局リポート」(北京支局からのレポート)である。
これによると、「日本のメディアが鉄道事故を笑った」という捏造写真が広まり、一時は日本への感情的な批判・反発が続出したという。
明らかに捏造ということが立証され、今は静まっているそうだ。
記者は、二つのことを考えたという。
一つは、「中国内の不満を日本に振り向けようと考える勢力が相も変わらず存在する事実」。
もう一つは、「最近の日中関係をうまく突いていると思わせる点」。
最後に、記者は、中国はすぐに問題点を克服してくるだろう、
日本に「笑っている余裕などもちろんない」、
と指摘している。
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中国の国内問題に立ち入る積りはないし、数多ある中国論なるものに立ち入る積りもさらさらない。
あくまで、我々の側にある「禍々(まがまが)し」さについて考える糸口にしたいと思うだけだ。
ここでは、記者の指摘する
「中国内の不満を日本に振り向けようと考える勢力が相も変わらず存在する事実」という箇所の、
「中国」部分と「日本」部分を入れ替えても、同じことが言えないか、について考えたい。
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平気で日本の商品をコピーしてオリジナルだと主張する中国、
軍事力(特に海軍力)を増強する中国、
あらゆる地域で近隣諸国と領土紛争を起こす中国、
GNPで日本を抜いた中国、
日本の土地(特に北海道)を買いあさる中国、
民主化を弾圧する中国、
時折散発する農民暴動、
云々
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中国に関するニュースには、「何故か?」、ネガティブなもの、日本の「国益?」からすると反対側に属するものが多い、と思えてならない。
何処かの誰かの(なんらかの「勢力」の)意思が働いているのか?
そこまで勘ぐらなくても、単純に国民に受けるニュースを並べたらこうなったのか?
もし、後者だとすれば、中国に関するネガティブなニュースは、実は、我々の心象風景の反射物ということになる。
他国の不幸に安堵したり笑ったりする、悲しい国民になってはいけない。
この問題、今後も、もう少し続けて考えてゆくことにする。
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ご参考までに「日経ビジネス」の記事を下記にご紹介。
(この記事自体、後段では危ない淵の辺りに近づいているようだ)
**********(読み易くするため段落を施す)
「日経ビジネス」8月29日号 海外支局リポート(坂田亮太郎 北京支局)
「中国鉄道事故の捉え方 日本に笑う余裕はない」
7月23日に中国浙江省温州で起きた高速鉄道の事故。
多くの死傷者を出したにもかかわらず、鉄道省は事故車両を現場に埋めようとした。
こうした安全を無視した対応に対し て、マスメディアだけでなく微博(ウェイボー)(中国版ツイッター)などソーシャルメディアからも厳しい批判が浴びせられた。
その1つに私は目を疑った。
「日本のメディアが鉄道事故を笑った」との報道が中国で流れたのだ。
ネットに出たその“報道画面”は、確かにテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」の女性キャスターに見える。
死亡事故に対してあまりに不謹慎ではないかと中国の世論は当然、強く反発し、「イヌの陰険な一面が垣間見えた」とか「日本人は中国人を人として見ていない」などと感情的な書き込みが殺到した。
日本でガス抜きを画策?
実はこの画像は捏造されたものだった。女性キャスターが笑ったシーンに鉄道事故のテロップを重ね合わせた安直な手段だったため、ウソだとすぐにばれたのだ。
デマだと分かると批判は程なく落ち着いた。
しかし、私は2つのことを考えさせられた。
1つは中国内の不満を日本に振り向けようと考える勢力が相も変わらず存在する事実だ。
首謀者の意図は図りかねるが、これまでも中国内のガス抜きに日本がスケープゴートにされてきたことは少なくない。
今回のケースで、民衆の不満のはけ口として、日本や日本企業にいつでも災難が降りかかる恐れがあることを改めて実感した。
もう1つは、最近の日中関係をうまく突いていると思わせる点だ。
事故発生前、中国鉄道省は米国など世界5カ国・地域で高速鉄道車両に関する特許を出願していた。
これは日本には看過できない問題だ。
1998年に当時の小渕恵三首相が江沢民国家主席に「21世紀の日中友好のシンボルにしたい」として日本から中国に提供したのが高速鉄道技術だ。
それがいつの間にか中国の独自技術へと豹変し、米国などで計画されている高速鉄道計画で日本の競合として中国勢が台頭しようとしている。
恩を仇で返すような中国の行為に、特許を巡る係争は外交問題に発展しかけていた。
それだけに日本側がライバルである中国の失敗をほくそ笑んだと思わせる状況が外形的には整っていた。
そんな日本人がいるとは思いたくないが、中国の事故によって一種の安堵感が日本 国内で広がったのは事実ではないだろうか。
これで中国の鉄道輸出は急ブレーキがかかる、と。
本当にそうだろうか。一連の事故は確かに汚点に違いないが、中国政府は人心を一新してこの間題を克服してくるに違いない。
母国に巨大な鉄道整備計画があるという競争優位性は揺らぎなく、安価でかつ安全性を高めた鉄道車両の提供を着実に目指してくるだろう。
その時、厳しい状況に追い込まれるのは日本の方だ。
日本は立て直しのチャンス
そもそも中国が知的財産権に対する意識が希薄なのは今に始まったことではない。
そうした相手と合弁会社を設立し、曲がりなりにも利益を上げてきたのが日本の自動車産業だ。
鉄道で「マネされたから勝てません」などと簡単にねを上げていたら、それこそ日本国内からも嘲笑の声が上がるだろう。
もちろん個人で購入するクルマと公共事業に絡む鉄道は単純に比べることはできない。
しかし新幹線をはじめとする日本の鉄道技術は世界最高レベルにあると喧伝されてきた。
にもかかわらず世界市場でその優位性が生かせてこなかった原因をきちんと突き詰める必要がある。
中国が事故対応に追われている間は日本が体制を立て直すチャンスでもある。
相手側で起きたトラブルを奇貨と捉えるべきであり、笑っている余裕などもちろんないのだ。
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