ソフトバンク社長孫正義氏は、3・11以降、被災地に私財100億円を寄付し、また、脱原発を表明して、太陽光発電など自然エネルギー推進の先頭に立っている。
さらに、菅首相と何回か懇談したり、自然エネルギーによる発電などを会社の定款に加えたり、35道府県と「自然エネルギー協議会」を、17政令指定都市とも同様の協議会を設立するなど、経営者の中でも特に際立った動きを加速している。
毀誉褒貶も多く、彼を尊敬する人も嫌う人も多いようだ。
「朝日新聞」7月30日に、朝日主筆の若宮啓文と脱原発や自然エネルギーに関する考え方などを話し合っている記事があったので、以下にご紹介する。
(適宜改行を施す)
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(前略)
若宮 これまで原発に関心はなかったそうですね。
孫 まったくゼロでした。ゼロ。そもそも自分の本業以外にはあまり興味がなくて。原発は安全なんだと多くの日本人もそう思っていたと思うけれど、専門家が世のため人のために安全に電力を起こしてくれていると思い込んでいましたからね。
若宮 私は立場上、いささか悩むことはありましたが、こんなことになろうとは思いもせず、やはり大きなショックを受け、反省もしました。
そういえば、子どものころ大人気だった鉄腕アトムのエネルギーは原子力で、妹の名はウラン。日本人の大半はそれを変に思わなかった。
孫 そうそう。僕が小学生のころテレビではやり始めたんです。
若宮 今度の事故は津波対策が間違いだったので、原発そのものは維持すべきだとの主張があります。
孫 普通、人間ってミスを犯すと思うんです。考え違いも時々ある。想定できなかった過ちは仕方ないという部分もあるかもしれないが、一度大きな事故を起こして、それをまた懲りずに繰り返したら、今度はもう想定外という言いわけは絶対に通じないと思うんですよ。
では、文明の利器として飛行機に乗らないのか、自動車に乗らないのか、事故は起きるよ、という人がいますが、それらを使うか使わないかは個人の判断に全部選択権がある。
でも、原発はそこに住んでいる母親たちや子どもたちにとって、ほとんど選択権がないですよね。
若宮 それに、原発事故は一過性の悲劇では終わらないから怖い。
そして膨大な放射性廃棄物もどうするのか。
日本の核燃料サイクルはうまくいかず、答えは出ていません。
孫 最終処理の方法をだれも明確に言えない状況で、それをつくり続け、未来の子どもたちに、あんた方が勝手に解決してくれと。
若宮 フィンランド映画「100000年後の安全」を見ましたが、自国の地下に廃棄物の巨大な墓場をつくっている。しかも、放射性物質が出なくなる10万年後まで未来の人類が地下を掘り返さぬよう安全の担保で真剣に悩んでいる。縄文時代から今日まで1万年というから気の遠くなを話ですが、ああいうのを世界中でつくるのか。
孫 もし日本に埋めたとして、地震で破裂して出てくるなんてこともないとは言えない。
完全な安全の想定というのは難しい。
しかも、起きてしまったら取り返しがつかないかもしれないのだから、少なくとも国のリーダーは責任ある配慮をしなければ。
原発擁護の人たちの声って結局、集約してみると、お金の話ですよね。経済論。それだけでしょう。
若宮 大半はそうですね。
孫 電力はほかの方法だっていくらでもつくれるのに、要はお金の問題で、原発に頼らないと安く電力を安定的に供給できないと。一言でいえば、それだけだと思うんです。
最近はCO2(二酸化炭素)の排出量がそれに付加されていたけど、C02を出さずに発電できる再生可能エネルギーが広がっていくのに合わせて、しばらく頼らざるを得ない火力などを徐々に減らしていけば、非常に危険な原発に対する依存から脱却することは時間の問題でできるのではないか。心底、そう思うんですね。
若宮 朝日新聞の社説特集も同様の提言をしました。ただ、太陽光で原発1基分を発電するのに山手線の内側ほどの面積のパネルが必要だといわれます。これは簡単ではない。
孫 いま35道府県が賛同してくれてますが、土地はある。大規模工業団地として造って9割も遊んでいるような用地、産業廃棄物の埋め立て地、かつての塩田などです。耕作放棄地も全国に40万ヘクタールあり、それだけで山手線内の60倍。それに風力、地熱、バイオ、潮流や波力など、いろんな自然エネルギーを適材適所、ベストミックスでいけばいい。
若宮 太陽光をはじめ自然エネルギーはコストも高いのですが。
孫 エネルギー政策は国策として50年単位くらいで考えないと。化石燃料は今後、高騰していく。
一方、例えば太陽光はハイテク技術だからコストダウンする。おそらく10年くらいで発電コストが逆転し、残り40年は自然エネルギーの方が安い時代が来る。電力の資源の9割を国外に頼る現状では自給率も上げねばならず、答えは一つだけ。
そのときに先駆者として世界への輸出国になるのかどうかが大きな分かれ道です。
原発が安いというのも、実は事故の補償コストを入れる前の話です。
若宮 孫さんは安い中国製パネルの輸入を考えているとか。
孫 勝手に誰かが言うだけです。
若宮 いま日本製パネルは高いけど、大量発注すれば大きくコストダウンできて産業も興せる。東北再生にもつなげられませんか。
孫 その通り。全体のコストでパネルなどの部材が6割で、その7、8割が国産になるでしょう。土木部分を含めた人件費が4割で、ほとんど日本人が働く。すると全体の9割近くは日本人が雇用され、日本の技術が使われる。コストはほとんど日本人の雇用という形で払われる。
若宮 自治体が土地提供などで協力しても、発電事業の収益は9割以上をソフトバンクがとるそうで。
孫 それも誤解がある。大変な設備投資や運営費が必要で、利益が出る保証はまだないし、仮に利益が出ても、すべて再生可能エネルギーに投資します。ソフトバンクの株主に配当したり、本業に流用したりは一切しません。
若宮 なるほど。もっとも、他の企業が参入してくるためには、ビジネスとして成り立たないと。
孫 そもそも電力会社は上場会社で収益を上げる目標でやっている。
今度の再生可能エネルギー特別措置法案も、自然エネルギー産業に企業が参入し、永続し拡大していける法案でないといけない。
買い取り価格や年限もそうならないと、慈善事業家だけが無理して入ってきて産業として広がらない。
我々は呼び水としてリスクを取ってきっかけづくりをやるけど、本業はあくまでも情報革命。早く本業に戻って専念したい。
再生可能エネルギーでもうけるつもりはさらさらないのです。
若宮 自民党の谷垣禎一線裁に会ったら、金融再生委員長だったとき、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)を買収した孫さんに持続的な経営を約束してもらったのに、売り抜けられたと不信を語ってました。
孫 あのときは3社で一緒に日債銀を救済することになり、一応それができたのですが、こちらがブロードバンド革命のための資金が必要になりへ泣く泣く手放した。売り抜けたのではなく、オファーのあった三井住友フィナンシャルグループにお任せする方が銀行の発展にもよいと判断したのです。
若宮 今度もうまくいかなかったら、さっさと引き揚げちゃうんじゃないかと悪口を言う人もいます。
孫 最初から「きっかけづくりしかしません」と言っているのです。悪口を言う人は、何をしても言うんでしょうが。
若宮 デンマークは70年代の石油危機から風力発電に力を入れてエネルギーの自給を果たし、風力発電の製造輸出で経済を興しました。日本は石油危機で原発に拍車をかけまし。
たが、今回の危機は日本も五十年、百年の計を考えるチャンスですね。
孫 この百年くらい人間の歴史はエネルギーを求めて国家が戦争してきた。次の百年もエネルギーを求める戦争がないとも限らないほど、国家にとって重要な原動力です。
その中で化石燃料の資源が徐々に枯渇していく。原子力にも大きな問題がある。
すると、自然エネルギーを活用した新エネルギーに切り替わっていく。風力とソーラーはこの20~30年、世界で毎年20~30%ほど伸び続け、ますます加速するでしょう。
そんな見通しのきく産業は、ほかにあまりない。
日本が何に成長の活路を求めるか。
なぜ、国を挙げてそこに真っ先に参入しないのでしょう。
国を挙げて原発1基をベトナムに売っていくら売り上げが立つんですか。何社がそれでもうかるんですか。
若宮 だから、孫さんは経団連から嫌がられるんでしょうね。
孫 経団連は、原発を輸出しないと国の経済が成り立たないみたいな話をするけれど、もっと大きなそろばんをはじいてほしい。
日本国民の将来の食の安全とか、土地の安全とか、空気の安全とか、将来もっと大きな産業になる芽を摘んでしまわないように。
若宮 内村鑑三は著書「後世への最大遺物」の中でお金持ちになる才もたたえ、問題はお金を社会のためにどう残すか、どう使うかだと説きました。大いに期待しています。
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過去の利権の安逸をむさぼり続けるのか、新産業創出を目指すのか?
国と企業家の在り方の真髄が試されている、と思う。
孫氏は、これはチャンスだ、と言っている。
孫氏はスマートグリッドをやりたいんでしょう。
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