承安2(1172)
5月
・平経正、左兵衛佐となる。
5月12日
・京中の人々が疫疾を免れるために六角堂や因幡堂(いなばどう)などに諷誦(ふうじゆ)文を納める。
5月16日
・源師仲(57)、没(誕生:永久4(1116))。公卿で歌人。
5月20日
・洪水で六波羅付近の人家流失。
6月14日
・祇園御霊会(ごりようえ)に法皇が神輿3基、獅子7頭を寄せる。疫病を鎮めるのが目的(『百練抄』)。
6月20日
・摂政藤原基房(29)室忠子、男子を出産〈後の師家〉。
7月9日
・異国船が伊豆に漂着し、島民に乱暴を働き放火する。
伊豆国を知行していた源頼政から鬼が出現したとの報告。紫壇(しだん)・赤木(せきぼく)で造られた船に乗った鬼形の者が5~6人、出島にやって来た。島人が言葉をかけても返答をしないので酒を勧めると応じた。やがて飲むうちに弓矢をよこせと乞うてきたので、駄目だと断ると、怒って3尺ばかりの白木で島人を突き殺して合戦となり、やっと追い出しはしたものの、南を指して逃れてゆく際に火を放たれたため、村の畠は焼き払われてしまったという。
7月21日
・後白河、検非違使別当の藤原成親が丹波・越後両国を知行国にえて贅をつくして造った三条殿御所に行幸。翌日、院北面下臈(げろう)が雑芸を行う。
7月21日
・藤原定家(11)、摂政基房の子(のちの師家)が皇嘉門院藤原誠聖子に参るに際し、前駈として参仕(「玉葉」)
8月13日
・延暦寺僧徒、祇陀林(ぎだりん)寺を襲う。
熊野の海賊の首領である別当湛快の子湛増の従者が比叡山の僧と争って、山僧が殺され、報復を狙った山僧が祇陀林寺別当の能順(のうじゆん)房の家を湛増の家と間違って散々に打ち破る。
9月
・宋から国書・贈物が届き、後白河法皇・平清盛に返書を求める。
南宋の孝宗が後白河法皇と清盛に対して国書と贈物を送り、朝貢の使いを求めてきた。孝宗は、外交・貿易に積極的方針をとり、貿易奨励のために、外国商船の来航を歓迎し、また関税率を引き下げたり、宋商人の海外渡航の便宜をはかって、関税徴収法を明確化し、二重課税のおこなわれることを禁じたりした国王で、とくに日本には大きな関心をもっていた。
国書が届いたとき、朝廷貴族の多くは、「日本国王」というよびかけで、また朝貢を求めてきたこの国書を非礼なものと考え、伝統的意識からこれを非難し、贈物を返却し、返事も不要であるとの意見をだした。しかし、後白河法皇は伝統的なしきたりを無視して、清盛が宋の使節を引見することを許し、翌承安3年(1173)3月、清盛に返牒と返礼の品を送らせ、宋との正式な外交・貿易を開始した。貿易の利のためには、形式的な体面や旧来の慣習などを無視する新しい感覚が上皇や清盛には具わっていた。
送文には「日本国王に賜ふ物色、太政大臣に送る物色」と記されていた。日本国王は法皇、太政大臣は清盛のことを指すものであったから、国王に賜うとはすこぶる奇怪であるとされ、供物を返すか、留め置くかが議されている(『玉葉』)。
輸入品:東南アジアの沈香(香料)・蘇芳(染料・薬材)・中国の磁器・宋銭(銅銭)・絹織物・文房具・絵画・書籍(宋が国外輸出禁止した「大平御覧(大百科全書)」を献上)。
10月15日
・福原で法華法。千僧供養。後白河法皇も参加。
これに先立つ11日、法皇は一身阿闍梨に任じられる。これは清盛が供養での大阿闍梨を法皇に要請したことによるものといわれ、供養当日には仁和寺宮の守覚法親王(しゆかくほつしんのう)や七宮覚快(かくかい)法親王、僧綱(そうごう)など千人の僧が出席。
10月19日
・後白河院(46)、熊野へ御幸。27日、福原へ御幸。
12月1日
・新田義重、園田御厨司に濫妨を訴えられる。
12月14日
・南都興福寺の衆徒、平重盛の家人が春日神人を殺傷したにより蜂起。27日、入京を企てるが制止される。
以前、重盛の家人である伊賀国の住人と春日社の神人(じんにん、神社の神事および日常の雑役に奉仕する下級身分の神職・手工業者ら)との間に争いがあり神人が殺害された。春日社は犯人処罰を要求したが、裁判結果のしらせもなく月日が過ぎた。どうやら重盛は強く自説を主張し、裁判に至らないまま事件を終わらせようとしたらしい。それで、春日社と一体であった興福寺の大衆600人が蜂起し上洛を企てた。重盛は、これにも武士を派遣して道々で防御させた。
この時、藤原氏は氏長者の使を南都に送って慰撫することに努めた。延暦寺の場合と異り、興福寺は地理的にも都に距離があり、神木を奉じての上洛には困難が伴うが、それ以上に、院権力と清盛との協力の前に、目的を達し得ないであろうとの藤原摂関家以下の政治的判断があったと思われる。摂関家の一人の九条兼実は『玉葉』に、「大衆の訴え、道理の又道理也」と衆徒側の要求を支持している。
12月24日
・建春門院、石清水八幡宮に参籠。
12月27日
・松殿基房、関白となる。
つづく
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