7月2日「朝日新聞」夕刊に、浜岡原発廃止を求める訴えに関する小さい記事があった。
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浜岡廃止求め 住民らが提訴
城南信金理事長も
東海地震の想定震源域にある中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)をめぐり、同県の弁護士や住民ら34人が1日、中部電力を相手に、同原発の廃止(運転終了)などを求める訴えを静岡地裁に起こした。
原告団には、城南信用金庫(東京)の吉原毅理事長や同県湖西市の三上元(はじめ)市長らが参加。訴状では、岡原発は大地震時の津波対策が不十分で、安全性が確保できないと主張。廃炉が決まっている1、2号機を除く3~5号機の廃止と、1~5号機の使用済み核燃料棒の安全性確保を求めている。 (植松佳香)
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この記事中にある、城南信用金庫の吉原毅理事長への比較的長いインタビュー記事が、その前日(6月29日)の「朝日新聞」に掲載されていました。
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きわめてまっとうな経営者としての姿勢に感動しました。
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以下、インタビュー記事の内容です。
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インタビュー「脱原発宣言のわけ」城南信用金庫理事長 吉原 毅さん
見出し
思い上がりの象徴
信金の原点考え
原告団にも加わる
信用金庫としてトップクラスの城南信用金庫が、経済界では異例の脱原発宣言をしている。ホームページで宣言文を掲げ、吉原毅理事長が動画サイトで「地道に行動に移していこう」と訴える。その内容はツイッターでも広まった。浜岡原発(静岡県)の廃炉を求め、7月1日に提訴する原告団に加わる吉原さんに、真意を聞いた。
---脱原発宣言には「原子力エネルギーは私たちに明るい未来を与えてくれるものではない」といった表現もあり、刺激的です。ただ、時流に乗った側面はありませんか。
「いえ、逆に不安の方が強かった。あちこちから『よけいなことをするな』とたたかれたらどうしよう、と。
経済界のほとんどが原発問題について沈黙するなかで、社会的なメッセージを打ち出すのは勇気が必要でした。
私たちだけでなく、ほかの金融機関や大企業にも発言してほしいのです。
うちが世の中を変えてやろうじゃないか、という人がどんどん出てきてくれれば、これほどうれしいことはありません」
---とはいえ「節電プレミアム預金」などの商品を発表しています。収益アップを期待したのでは?
「この2カ月間で、『節電』関連の申し込みは定期預金が16件、ローンが20件だけです。
ソーラーパネルやLED照明などを10万円以上買った方に100万円までの定期の利息を年1・0%に優遇しています。こうした投資のためのローンは最初の1年間は無利子。
収益より脱原発の姿勢を示すことが大事なんです」
---浜岡原発の運転終了や廃止を求める弁護団が、中部電力を相手取って訴訟を起こします。原告団に加わっていますね。
「そこまでするべきか、とも考えました。
でも弁護団から力を貸してほしいと頼まれたとき、何も逃げる必要はないと思ったんです。
今回の原発事故は人間の思い上がりを象徴するものです。
このような技術文明は近代合理主義の行き着いた果ての姿かもしれません。
経済発展は、無理のない着実な程度がよいのです。
それなのに大局観もなく突き進み、成長のために原発はやめられないと思いこんだところが問題でした」
---脱原発によるエネルギー不足や経済活動への影響は心配しないのですか。
「断定的には言えませんが、原発がなくても十分間に合うのでは。
まず、停止中の火力発電所や水力発電所をフル稼働させる。天然ガス発電や地熱発電にも大急ぎで取り組む。一方で、節電は『最大の電力源』ですから、一般家庭はライフスタイルを見直し、企業は省電力化に努める。
私たちは原発への依存をなくす意味で『3割節電』を目標に掲げ、この3カ月間、はば実現しています。いかに無駄に電力を使っていたのか、と気づきました」
「今回のような事故を二度と起こしてほならないと考えるならば、すべての原発はいったん運転を止めるべきです。
一斉点検し、老朽化したものは廃炉にする。
できるだけすみやかに、です」
---電力会社や大企業とのしがらみがない信金だから好きなことが言えるのではありませんか。
「たしかに、ごまめの歯ぎしりかもしれません。でも共感してくれる人は増えています。
三井住友銀行の西川善文名誉顧問はネット上で、城南信金の脱原発宣言を『英断』と書いてくださいました。これはありがたい。『国として脱原発に取り組むのであれば、こうした動きが大銀行をはじめ全金融機関に波及することを期待する』とのコメントもいただき、意を強くしました」
「メガバンクは電力会社の大株主であり、債権者です。
総理大臣は電力会社に原発停止の要請しかできないけど、メガバンクが右を向けと言えば、電力会社は石を向く。絶大な力です。
新しい方向性を打ち出してくれれば世の中を変えることができますよ」
---脱原発で電気料金が上がり、経済活動にも影響があるのでは?
「適正に計算し直すと、原発のコストは高い。
地域への交付金や放射性廃棄物処理、事故対策などの費用に加え、事故があったときの補償費も、私たち金融機関からみると『経常費用』として計算に入れなければなりません。
純民間ベースなら原発事業に融資する銀行は一つもないはずです」
「原発廃止の費用を除いて代替エネルギー導入のコストを計算すれば、電気料金はそれほど上がらずに済むかもしれない。70年代の石油ショックを受けて、省エネ技術の開発が進みました。努力もしないで、原発はなくせないと言い張るのはおかしな話です。
これほど致命的な事故の可能性があるものに、なぜ依存しなければならないのでしょう?」
---しかし、城南信金は震災以前から原発を問題にしていたわけではありませんよね。
「正直いって私自身、不安に思っていませんでした。反原発運動に対しても、なぜそこまで反対するのだろう、と思っていました。いま、申し訳ない気がしています。ちゃんと考えなければいけませんでした」
---金融機関が脱原発を公言するのは意外です。何か下心でもあるんじゃないかと・・・。
「私たち信用金庫には、中小企業や個人客を大切にし、地元の発展に貢献する使命があります。利益や株主への配当を重視せざるをえない銀行とは違います。
城南信金は、顧客に損失を与える恐れのある商品や消費者向けのカードローンなどを扱いません。金もうけのために存在するのではないという自負がある。
信金のルーツは19世紀に英国で生まれた協同組合運動です。産業革命で貧富の格差が広がり、お金に振り回されて倫理や道徳が失われる恐れが出てきた。それを是正し、みんなが幸せに暮らせる社会をつくろうという理想を掲げたのです」
「昨年11月に理事長に就任したとき、信金の原点に立ち返ろうと考えました。そこに大震災が起きたのです。こんなときに損得勘定や事なかれ主義は許せない。実際には無力かもしれないけど、社会の役に立とうという気持ちは大切にしたいと思っています。そこが私たちのアイデンティティーなんです」
---宣言に踏み切る直接のきっかけは何だったのですか。
「福島県と岩手県の信金から、就職が内定していた学生らを採用してもらえないかと相談されたんです。計10人。福島の信金は原発事故の影響で6店舗を閉鎖するほどの事態だというのです。信金は地域に根付いた金融機関ですから、事故が起きても移転するわけにはいきません。同業の仲間として、どんな思いだろうかと痛切に胸に響きました」
「ひとごとではないと、より実感したのは、東京の水道水から放射性物質が検出されたときです。若い職員は避難させた方がいいのでは、という話も出ました。原子力に強い違和感を覚えるようになり、メッセージを発信しなければと考えました」
---経済界の異端児ですね。
「とんでもない。私は常識人ですよ。ご近所のみなさんや中小企業の経営者の方々が思っているような、ごく当たり前のことを言っているだけです。例えば電車の中で、誰かがからまれていたら『やめなさいよ』と言うでしょ。
私は、企業は人間と一緒だと思うんです。お金を稼ぐだけじゃなくて、理想もあるはずだし、魂もある。
企業だって、正しいと思ったことは発言すべきです。そこで働く人たちの誇りにかかわることなのです」
(聞き手・磯村健太郎、山本晴美)
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