2013年3月30日土曜日

「イスラムの人々はなぜ日本が好きなのか」(宮田律著)という本が出版中止になったそうだ

毎日JP
発信箱:出版中止=小国綾子
毎日新聞 2013年03月26日 東京朝刊

 アルジェリア人質事件の後、刊行を目前にしていた1冊の本が突然、出版中止となった。現代イスラム研究センターの宮田律・理事長の「イスラムの人々はなぜ日本が好きなのか」。版元の日本経済新聞出版社は「多数の犠牲者が出た痛ましい事件の後では刊行を見合わせるべきだと判断した」と説明する。

 宮田さんが本に描こうとしたのは、日本がイスラム諸国でどれほど愛され尊敬されているかだ。「イスラム圏では、日本の戦後の経済発展、日本人の勤勉性や礼儀正しさを称賛する日本びいきが多い。人質事件で『日本人が標的になった』と日本で誤解が広まっている今こそ、読んでほしかった。出版中止がイスラム圏で報じられたら日本の評判が下がりかねない」と残念がる。宮田さんが経緯をフェイスブックに書き込んだところ、瞬く間に話題となり、「読みたい」の声が殺到。複数の出版社が「日経出版が出さないならうちで」と申し出ているという。

 アメリカに暮らしていた頃、私にはなぜかイラン人の友達が多かった。相手の心をおもんぱかるところがどこか日本人と似ていると思った。東日本大震災の数日後、自宅のドアを開けたら、抱えきれない大きな桜の花束が……。イラン人の女性からの贈り物だった。押し付けがましいことを好まぬ彼女は、呼び鈴すら押さなかった。添えられたカードには「我が家の庭に咲いた桜です」。花束を抱きしめながら、思い出した。イランも地震で多くの命を失った国だったことを。花瓶を総動員して生けたら、家中が薄桃色の春に満たされた。

 世界は多様な価値観でできている。似ているところを見つけて慈しみ、違うところを学び尊重したい。私は今この本を読みたい。(夕刊編集部)

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