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虚構の環:第2部・政策誘導/5止 有識者「緊急提言」、エネ庁職員が素案作り
毎日新聞 2013年04月21日 東京朝刊
◆虚構の環(サイクル)
◇非公開会合に課長出席
民間の有識者団体「エネルギー・原子力政策懇談会」(会長・有馬朗人元東大学長、座長代理・望月晴文元経済産業事務次官)の有志が2月25日、安倍晋三首相と茂木敏充経産相に「緊急提言 責任ある原子力政策の再構築」を提出した。「原発の必要性は自明で再稼働を図るべきだ。同時に核廃棄物処理、再利用システム(核燃サイクル)の実用化を急ぐ必要がある」などと訴える内容だ。東京電力福島第1原発の事故から2年。政財界を中心に同様の声は日増しに強まり、その裏で経産省資源エネルギー庁が動いていた。
取材班は提言のたたき台に当たる「骨子案」の電子データを入手した。1月に作成され、A4判2ページ。右上に「機密性○」と表記されている。「原発は早期に再稼働させるべきだ」「核燃サイクルは重要」など11項目に及び、提言と似た表記が多い。プロパティー(更新記録などの付属情報)の作成者は「情報システム厚生課」、会社名は「経済産業省」だ。
経産省によると、公文書は重要度によって機密性1〜3のいずれかに指定する。このため、パソコンでファイルを新規作成すると自動的に「機密性○」という表示が現れる。また、ソフトを同課で一括購入するため、経産省のどの部署の職員が作成しても、作成者名は同課になる。
取材班は2月上旬に作成された「提言素案」も入手した。実際に提出された提言とほぼ同じ内容だ。このプロパティーも「経済産業省」になっている。関係者が明かす。「エネ庁職員が作成した。幹部はこうした事情を承知していた」
有馬氏は取材に対し「原案を誰が作成したのかは分からない。だが私もある程度は書いているし、内容をよく読んでチェックもしている。我々の責任で作成したものだ」と説明した。望月元次官も「現職の関与はあり得ない」と話した。
◇
昨年9月10日、東京・赤坂の地上37階建て「アーク森ビル」。最上階にある「アークヒルズクラブ」の会議場で、13回目となる懇談会の定例会合が開かれた。これまで通り非公開。出席者名も明らかにされていない。
取材班は当日の座席表を入手した。参加者は55人。望月元次官の隣は、エネ庁の吉野恭司原子力政策課長だ。青森県六ケ所村の再処理工場を経営する「日本原燃」、商用原発を保有・建設する全電力会社(11社)に加え、望月元次官を昨年6月、社外取締役に迎え入れた原発メーカー、日立製作所の名前もある。
第9回会合(昨年2月17日)の座席表には、氏名ではなく「経済産業省 原子力政策課」と記されている。関係者によると、同課職員が手分けして2回に1回程度の頻度で参加してきた。午前7時半に始まる会合が午前10時ごろまで続き、エネ庁の始業時間(午前9時半)に遅刻する日もあった。
核燃サイクル政策の見直し。2年前はエネ庁内部にも「事故を機に改革しよう」という熱気があった。しかし熱は冷めた。職員が語る。「政権交代がすべてだ」(肩書は当時)=おわり
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