2013年4月27日土曜日

【「国と国」を語る(7)】靖国は平和祈念の場でない/アジアの一員に立ち戻れ/作家・山中恒氏

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【「国と国」を語る(7)】靖国は平和祈念の場でない/アジアの一員に立ち戻れ/作家・山中恒氏 

 緊張が続く日中関係、沖縄の米軍基地問題など民主党政権が積み残した外交課題は多い。日本外交は閉塞(へいそく)感が深まっているようにも見える。安倍晋三政権はもつれた糸を解きほどけるか。「国と国」の関係の現状と未来像を各界の識者に聞く。
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 ―多くの児童文学作品を発表後、1970年代半ばから「ボクラ少国民」など戦争を題材にしたノンフィクションも書き始めた。戦時中の書籍、雑誌など膨大な史料の収集家でもある。きっかけは?

 「児童向け読み物の中で、僕はあえて戦争に反対する話は書いてこなかった。子供のころに戦争賛美を刷り込まれたから、逆のことも子供には露骨に書かないようにしてきた。しかし、僕が子供時代、よく分からなかった大人たちのふるまいの理由を調べてみると、戦争についてまだ隠されていることがたくさんあると知った。それで史料集めを始めていった」

 ―日中関係が緊張している現在と日中間で戦争が始まった1930年代との共通点はあるか。

 「満州事変は関東軍主催、新聞社後援といわれるほどメディアも戦争をあおった。今回も一部メディアが過剰に何かをあおっている印象がある。人々が一斉に一つの方向に向き始めているように思える点も似ている」

 ▽筋通らない石原氏

 ―石原慎太郎前東京都知事(日本維新の会共同代表)の尖閣購入宣言がきっかけだった。

 「 ( 領有権 問題 は ) 棚上げでよかったのに、あれで多くの人が迷惑を被った。なのに、石原慎太郎を本気で戒める論調は少ない。僕は彼の原作(『死の博物誌―小さき闘い―』)で映画の脚本を書いている。裕次郎主演の『敗れざるもの』(64年)で、その時に10日間ほど慎太郎と一緒に過ごした。裕次郎は実に心遣いができる人だったけど、慎太郎はすぐ編集者を怒鳴りつけて『社長を呼べ』とか言う。何かを創造する人には敬意を払うが、他の人にはひどく権威主義的。でも、ひどいことを言った後で照れくさそうに笑うんだ。気が小さいところもあった」

 「尖閣購入の発表を(米保守派シンクタンク)ヘリテージ財団でしたのも彼らしい。言うなら日本で言えばいいのに。彼を右翼というけど、右翼としての一貫した論理もない。米国に対する姿勢など筋が通っていない」

 ―最近は一般の人からも「中国になめられるな」という声をよく聞く。

 「近現代史をちゃんと学校で教えてこなかったからじゃないか。ちゃんと教えると偏向教育だと言われるから教師も深く教えようとしない」

 「僕は戦前の政治を皇国史観による国体原理主義と呼ぶ。教育勅語に『国体の精華』という言葉がある。 天照大神 (あまてらすおおみかみ) の時代から日本人は忠と孝に尽くし、それが国の誉れで教育の根本だとされてきた。思想というより神話。ドイツのルーデンドルフは著書『総力戦』で『国家への忠義は日本人の信仰生活が命ずる』と書いている」

 ―ナチスもうらやんだ国民性ともいわれた。

 「そう。日本の場合は下から盛り上がってくるような全体主義で欧州のファシズムとも違った」

 ―靖国神社について。安倍晋三首相は「参拝は閣僚の自由意志」とし、自身の参拝にも含みを持たせている。

 「戦死した息子や夫を思って参拝する遺族の心情は分かるが、靖国は原爆、空襲、沖縄戦などで死んだ民間人はまつらない。 戦神 (いくさがみ) をまつる場所だからなんだ。平和を祈念する場でなく、戦争に勝つことを祈る場。今でも靖国は展示施設・遊就館などで過去の戦争を正当化し続けている。首相や閣僚が行く所ではない。僕にも戦死したいとこがいるけど、優秀でやさしい男だった。靖国にまつられているらしいが、僕には彼があそこにいるとはどうしても思えない

 ▽旧陸軍官僚と靖国

 ―A級戦犯合祀 (ごうし) の問題もある。

 「そもそも東条英機(元首相兼陸軍相)自身が戦争末期に通達した陸軍秘密文書で、靖国合祀は『戦役勤務に直接起因』して死んだ軍人・軍属に限ると通達している。東条自身もまつられるとは思っていなかったはず。A級戦犯の合祀は、陸軍省から旧厚生省に流れ込んだ旧軍官僚がやった」

 ―日本と近隣諸国との関係はどうあるべきか。

 「歴史の中で日本がやった悪いことは反省し、二度としない国づくりに励んでいることを示す。
かつて日本は『アジアの盟主』だと大きな顔をした。『アジアの一員』という視点に立ち戻るべきだ」(聞き手は共同通信編集委員 石山永一郎)
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 やまなか・ひさし 31年北海道生まれ。代表作に「あばれはっちゃく」「ぼくがぼくであること」など。74年「三人泣きばやし」で 産経児童出版文化賞 。93年「とんでろじいちゃん」で野間児童文芸賞。「すっきりわかる『靖国神社』問題」などの論考も多数。

◎ルーデンドルフ、陸軍文書 
 
 【エーリヒ・ルーデンドルフ】第1次世界大戦中のドイツ軍指揮官。1923年にヒトラーとミュンヘン一揆を起こす。著書「総力戦」は、戦争において軍が政治、経済、教育などを一元的に統括する必要性を説いた。

 【靖国 合祀 (ごうし) をめぐる陸軍秘密文書】44年7月15日付の東条英機陸軍相名の秘密文書。靖国合祀は「神聖無比の恩典」で①戦死者②戦地での17の流行病死者③戦地での重大な過失によらない負傷、病後の死者④戦地以外は戦役、事変に関する特殊勤務での負傷、病後の死者―に限るとした。「戦役勤務に直接起因」しているかどうかを「子細に調べよ」と命じている。
(共同通信)
2013/04/06 14:09

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