2017年2月2日木曜日

「ポスト・トゥルース」の危うさ 「真実」は二の次…日本は無縁と言えるか - 毎日新聞


 英国が欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票や、トランプ氏が当選した米国大統領選などで「うそ」が政治を動かしたと指摘される。その現象を表したのが、事実かどうかは二の次となる「ポスト・トゥルース(Post Truth)」。日本は無縁なのか。【井田純】

SNSで一気に拡散するデマ 虚偽報道検証するネットメディアも

 「ポスト冷戦」が「冷戦後の状況」を意味するように、「ポスト・トゥルース」は「真実が終わった後」の状態とでも言えばいいのだろうか。世界最大の英語辞典を発行する英オックスフォード大学出版局が昨年11月、2016年を象徴する言葉に選んだ。その定義とは? オックスフォード辞典によると「世論形成にあたり、『感情や個人的な信念』が優先され『事実』が二の次になる状況」という。

 では、具体的な現象を紹介しよう。英国の国民投票では、EU離脱派が「英国はEUに毎週3億5000万ポンド(約500億円)拠出している」などと訴えたが、離脱決定後に「事実でなかった」と撤回した。トランプ米大統領については、米メディア「ポリティファクト」が、選挙期間中から最近の発言を検証し、「真っ赤なうそ」「誤り」「ほぼ誤り」で計約7割を占める、と指摘している。

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 偽情報が世界を駆け巡る中、日本では既存メディアによる不正確な報道が問題になっている。「デマの訂正を」と有志の市民らが抗議しているのが、2日に放送された東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の番組「ニュース女子」だ。

 問題の放送では、沖縄県東村高江地区の米軍北部訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設問題を取り上げた。軍事ジャーナリストが、抗議する住民を「テロリスト」に例えたり、座り込みを続ける住民に高齢者らが多いことを指して「逮捕されても生活に影響もない」と皮肉ったりした。さらに「反対派の暴力行為により、住民でさえ建設現場に近寄れない」ことを理由に現場で取材していないことも分かっている。

 昨年10月、高江で抗議活動を取材した私(記者)の経験では、MXが報じたような状況はまったくなかった。「地元メディア以外の取材活動が危険だ」という放送内容を確認するため、その後の状況について沖縄県警に取材したが、広報担当者は「記者が襲われたなど聞いたことがない。(MXは)勝手に恐怖を感じているんでしょうか」と話した。番組ではまた、「抗議活動で救急車が現場に入れない事態があった」とも伝えたが、地元の消防署は「そういう報告は一切ない。そんな話を流されて迷惑だ」と否定する。

 番組への抗議に対してMXは、16日の番組後に「沖縄基地問題を巡る議論の一環として放送」「さまざまな立場の方のご意見を公平・公正にとりあげてまいります」などのコメントを放送した。これに対し、市民側は「うそは『意見』ではない」などと、より反発を強めている。

 このケースでは、ネット媒体が既存メディアの検証を始めた。インターネットメディアの「バズフィードジャパン」は、問題の放送の5日後に撮影場所が高江から約40キロも離れていることなどを指摘する検証記事を掲載。古田大輔編集長は「『この報道はおかしい』と指摘する検証記事は読者の反応が多く、求められていると感じています」。また、朝日新聞社での記者経験から「役所など情報ソースへの近さ、人員などの面で、新聞社は自分たちよりもはるかに優位。逆にネットという新しい世界での出来事や、既存メディアの報道の検証などでは、素早く動けてネット情報収集のスキルがある自分たちの強みを発揮できます」と語る。

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 日本の政治は「ポスト・トゥルース」に“侵食”されていないのだろうか。前出の日比さんは口調に力を込めてこう指摘する。「安全保障関連法の採決時、国会議事録は『議場騒然、聴取不能』となっていたのに『可決すべきものと決定した』などと書き換えられたのは大きな問題です。これでは公的な記録としての真実性が保証できなくなる。また、消費増税再延期に際しての安倍晋三首相の『新しい判断』という発言のように、政治家が前言を翻すようなことが日常的に起きていても問題にならない。それが日本的な『ポスト・トゥルース』の風景なのかもしれません」

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