2012年6月16日土曜日

生活保護 「命綱」を断ち切るな(東京新聞)


東京新聞
生活保護 「命綱」を断ち切るな   
2012年6月13日

 高収入の人気お笑い芸人の母親が、生活保護を受給していたことが問題視された。受給者への執拗(しつよう)なバッシングが、本来支援を必要としている多くの困窮者を追い詰めないか心配だ。
 生活保護は暮らしに困窮した人の「最後の命綱」だ。
 収入や財産がなく頼れる身内もいない。
 失業や病気で働きたくても働けない。
 親の介護のために仕事を辞めて困窮した人もいる。

 二百九万人を超えた受給者は、自助努力だけで解決せず生活に困った人たちである。
 元受給者で再就職を果たした女性は「財布に三千円あると今週は生きていけると思った」と言う。

 お笑い芸人の騒動は、自立を目指しぎりぎりの生活を送る多くの受給者への偏見を広げている
 確かに芸人の息子に収入があるのに困窮した母親を十分に支援せず、生活保護を受けることに道義的な責任は免れまい。
 一般的に親族だからといって人間関係が良好とは限らない。民法では三親等内の親族に扶養義務がある明治以来の考えだが、今や地域が崩壊し家族も孤立している。おじ・おばやおい・めいまで義務を課すことは時代にそぐわない

 受給には親族の扶養が求められるが、生活保護法では扶養の有無に関係なく受給できる。受給は憲法で保障された権利だからだ。だから芸人のケースは不適切だが、不正受給とまではいえない。

 厚生労働省は、親族に扶養できない理由を説明させる考えを示した。現在でも行政の窓口で申請をさせてもらえなかったり、親族に迷惑が及ぶことを恐れて申請をあきらめる人がいるのに、さらに困窮者を追い詰めないか。餓死者や自殺者の増加が心配になる。

 保護費は二〇一二年度で三兆七千億円と増加している。不正受給額も増えているが、保護費全体の1%にも満たない。

 社会で支えるには制度の公平性は不可欠で、不正や不適切な受給の防止は重要だ。だが、保護が必要な困窮者の約二~三割しか受けられていないといわれる現状にもっと目を向けるべきだ。
 受給者増は、非正規雇用が広がり失業後の再就職も難しく、老後も不十分な年金しか得られない低収入者が増えていることが要因だ。社会保障全体の命綱を太くする必要がある。
 不正を排除することで、支援を必要とする人を制度から遠ざけてはならない。手を伸ばす人たちに最後の命綱を確実に渡すべきだ。

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悪乗りして生活保護の額を削減しようとする厚労省の動きにも言及して欲しかった。
小宮山厚労相が生活保護費の減額を検討中。 芸人家族の不正受給事件に悪乗り? 河本擁護派/片山支持派
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