朝日新聞
【再稼働へ】新幹線延伸 見返りか
2012年06月20日
政府は県と、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働交渉を重ねる裏で、西川一誠知事の悲願だった北陸新幹線の延伸を決めた。「あ・うん」の呼吸だった。
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「(九州電力)玄海原発の再稼働を突破口にして、全国最多の原発を抱える福井県にも、ぜひ協力をお願いします」
経済産業省資源エネルギー庁の細野哲弘長官(当時)は昨年6月24日夜、極秘に福井市内を訪れ、会食の席上、そう懇願した。
相手は県経済団体連合会の川田達男会長。東証1部上場の繊維メーカー「セーレン」の会長兼社長で、西川知事の最大の後ろ盾だ。
政府は国際原子力機関(IAEA)に福島第一原発事故の報告書を出し、同月18日、再稼働の「安全宣言」を出した。佐賀県の玄海原発では、地元自治体が再稼働に前向きな姿勢を見せる一方、福井県や県議会は同月21日、説明に訪れた同省原子力安全・保安院に「ノー」を突きつけた。会食はその3日後だった。
「どんな要望でも申しつけ下さい」と、西川知事の説得を打診する細野長官に対し、川田氏は北陸新幹線の敦賀までの着工認可を求めた。
だが、細野長官は「菅政権では新幹線は念頭にない。こればかりは無理です」と答え、エネ庁の裏工作は不発に終わった。川田氏は取材に「認可が下りるなら、知事を説得する方向だった」と証言した。
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県政財界が、原子力政策への協力を「切り札」に、政府に求め続けた最大の地域振興策が北陸新幹線だ。
民主党政権は政権交代後の2009年10月、北陸新幹線の着工方針を決めていた自公政権の合意を財源不足などを理由に白紙撤回。反発した西川知事は翌10年春、ナトリウム漏れ事故で14年余り停止していた高速増殖原型炉「もんじゅ」(敦賀市)の運転再開をめぐり、地元同意の条件に「新幹線の着工認可」を公然と突きつけた。
同年3月中と目された運転再開が1カ月以上延びたのは、認可の確約を得ようと知事同意を遅らせたからだ。鳩山由紀夫首相(当時)から「地元の努力に十分報いなければならない」との言葉を引き出した。西川知事は「約束が実行されないなら国策への協力を見直す」とまで踏み込んで政府に迫ったが、同年末、認可は見送られた。
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核燃料サイクル政策の中核「もんじゅ」を人質にとっても認可されず、エネ庁長官が「菅政権では無理」と断言した北陸新幹線。野田政権は昨年12月末、「財源の確保の見通しがついた」と突然、着工方針を決めた。昨年6月の法改正でJRが支払う線路などの貸付料を建設費に回すめどが付いたという理由だった。
民主県議は県内延伸に喜びつつも「再稼働を認めてほしいという思惑か」といぶかった。10年に認可を見送った当時の馬淵澄夫元国土交通相は取材に「あのときは金がなかった」と政府の立場を代弁した。
西川知事は福島原発の事故後、再稼働の見返りに北陸新幹線を求めることは控え、東海道新幹線の代替の国土軸として必要性を強調してきた。
4月に来県した前田武志・国交相(当時)は講演で北陸新幹線に触れ、「地震で太平洋側がやられれば、福井を中心に日本海側で支える」と西川知事の主張に同調。取材にも「知事からもずいぶんと話を聞いた」と述べ、再稼働交渉と無関係を装った。
しかし、北陸新幹線に詳しい民主党国会議員の一人は「政権は知事が新幹線を何より欲しがっていることを『もんじゅ』の交渉でよく分かっている。再稼働に向け、知事が反対を続ける根拠を取り除いたということだ」と事情を打ち明けた。(足立耕作)
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