2012年6月9日土曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(10) 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その六)

東京 江戸城(皇居)東御苑 2012-06-07
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(10)
 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その六)

ブッシュが考案した政府の新たな役割
「プッシュ・チームは、9・11によって明らかになったセキュリティー上の問題に対処するために公共インフラの抜本的改革に取り組むことなく、その代わりに政府の新たな役割を考案した - セキュリティー対策を提供するのではなく、それを市場価格で買い上げるという役割である。
事件からちょうど二カ月後の二〇〇一年一一月、インターネット関連分野に精通した「ベンチャー投資コンサルタント」なるグループが国防総省内に立ち上げられた。彼らの任務は「国際的な「テロとの戦い」に挑むアメリカを直接的にアシストする最新テクノロジーによるソリューション」を見出すことだった。
二〇〇六年初めには、この非公式グループは国防総省の公式組織「国防ベンチャー推進イニシアチブ(略称DeVenCD)」へと昇格する。その任務は、政府にコネを持つベンチャー投資家へセキュリティー上の情報を流す見返りとして、そうした投資家たちに新たな監視装置や関連製品を生産できる新規ベンャー企業を探させるというものだった。


「われわれは検索エンジンのようなもの」だと、このグループを率いるボブ・ポハンカは言う。
ブッシュ構想によれば、アメリカ政府の役割は単に新たな戦争市場を立ち上げるのに必要な資金を調達し、民間企業のクリエイティブな発想から生まれた優良製品を買い上げ、さらなる技術革新を産業界に促すということにすぎない
政府が需要を創出し、民間企業があらゆる解決策を供給する。それによって、国土安全保障と二一世紀方式の戦争の分野で、国民の税金によってすべてをまかなう経済ブームを起こそうというのだ。」

空洞組織:国土安全保障省と対諜報現地活動局(CIFA)
「ブッシュ政権下で創設された国土安全保障省は、この全面的外注方式を如実に体現していた。
「われわれは物は作らない。すべては民間から調達しようということです」と同省のジェーン・アレクザンダ-調査部次長は説明する。」


「CIAとは別個の新たな諜報機関としてラムズフェルド国防長官のもとで創設された「対諜報現地活動局(CIFA)」も同様である。予算の七〇%を民間契約にあてるこの諜報機関は、国土安全保障省と同じく中身のない空洞組織として設立された。


国家安全保障局(NSA)のケン・ミニハン元局長は、「国土安全保障はあまりに重要であり、政府だけに任せておけない」と説明したが、そのミニハンも他の何百人ものブッシュ政権スタッフと同様に政府の職を離れ、自らがその確立に尽力した成長著しいセキユリティー業界に転職した。」

チェイニーの「1%原則」:経済的に見れば無数のチャンス
「国土安全保障省設立趣意書には、「今日、テロリストたちは時と場所を問わず、いかなる種類の武器を使ってでも攻撃してくる可能性がある」と記されている。
これは、セキュリティー産業も、いつどこで起きるかわからないあらゆる攻撃を想定して備えておく必要があるという都合の良い帰結を導く。
しかも全面的対応に値する脅威が本当にあるのかどうか、証拠を示す必要もない。
チェイニーの言う有名な「一%原則」によれば、脅威の可能性が一%あれば、危険性は一〇〇%とみなして対応する必要があるからだ。
これこそがイラク侵攻を正当化した論理にはかならない。
この論理のおかげで多大な恩恵を受けたのが、さまざまなハイテク探知装置を開発するメーカー各社だった。
国土安全保障省が天然痘のテロ攻撃の可能性を想定し、証明もされていない脅威に対抗するために探知装置の開発・設置資金として民間企業には五億ドルを提供したのは、その一例である。」


「テロとの戦い、イスラム過激派との戦い、イスラム・ファシズムとの戦い、第三世界の戦争、長い戦い、世代にわたる戦い - 呼び方はさまざま変われども、対立の基本的構図は不変である。
時間にも、場所にも、敵とする相手にも、いっさい制限はない。
軍事的に見れば、無限に広がったつかみどころのないこうした状況が「テロとの戦い」を勝利なき戦争にしている。
しかし経済的に見れば、これはまさに無数のチャンスだった。
たとえ勝利しても一時的なものでしかない戦争ではなく、世界経済構造のなかに永続的な戦いを新たに組み込む機会が到来したのだ。」

「ブッシュ政権になってから、国防総省の民間企業との委託契約金は一三七〇億ドル増の年間二七〇〇億ドルとなり、米諜報機関から情報活動の外注費として企業に支払われた金額も一九九五年と比べて二倍以上の年間四二〇億ドルとなった。
新設の国土安全保障省が二〇〇一年九月一一日から二〇〇六年までの間にセキュリティー関連事業を民間に委託した費用は合計一三〇〇億ドルに上ったが、これはチリあるいはチェコ共和国の国内総生産(GDP)を上回る
二〇〇三年、ブッシュ政権は民間委託費として三二七〇億ドルを費やしたが、これは自由裁量予算のじつに四〇%に相当する。」


「ワシントンDC近郊には、またたく間に「新規」や「設立準備中」のセキュリティー企業が入居したグレーのビルがあちこちに出現した。
九〇年代後半のシリコン・バレーのように、これら急ごしらえの企業にはオフィス家具がそろう間もなくカネが流れ込んだ。・・・
新規ビジネスと投資ファンドだけでなく、そうした企業としかるべき連邦議会議員の間を結ぶロビー企業が雨後の筍のごとく誕生した。セキュリティー事業に関連したロビー企業は二〇〇一年には二社しか存在しなかったが、二〇〇六年半ばには五四三社へと激増した。
セキュリティー企業に特化した投資会社パラディンの代表取締役マイケル・スティードは、テクノロジー専門誌『ワイヤード』に、「九〇年代初めから未公開株投資の仕事をしているが、こんなに次々と商談が続くのは初めてだ」と語っている。」
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