2012年6月3日日曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(9) 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その五)

東京 北の丸公園 2012-06-01
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(9)
 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その五)


企業型ニューディール
9・11を国内版経済ショック療法に利用する
しかし、「ブッシュ大統領と側近にはケインズ主義へ転換するつもりなどさらさらなかった。
9・11際してのセキュリティー上の大失態は、・・・信念を再確認させた。新たなセキュリティー上の課題に取り組むのに必要な情報や革新性を持つのは民間企業しかないという信念である。
・・・ブッシュ流のニューディール政策とはアメリカ企業のみに目を向け、年間何千億ドルという公的資金をそっくりそのまま民間企業へ渡すというものだった。
委託契約という形を取るが、その多くは秘密裏に提示され、競争入札や監視の目もない。その対象はテクノロジー、メディア、通信、刑務所、エンジニアリング、教育、医療と幅広い分野に及んだ。
*委託契約の競争入札の激減はブッシュ政権期のきわだった特徴のひとつである。
二〇〇七年二月、『ニューヨーク・タイムズ』紙は「新規契約と現行契約への支払い件数を合わせた全契約事業のうち、完全公開の競争入札は半数以下である。
二〇〇一年は七九%だった競争入札による契約件数は、二〇〇五年には四八%に減少した」と報じている。」

「9・11直後に人々が茫然としていた時期に起きたのは、まさに国内版経済ショック療法だった。
フリードマン主義に徹したブッシュ・チームは、ただちにこのショック状態につけこみ、戦争から災害対応に至るすべてを利益追求のベンチャー事業にするという、急進的な政府の空洞化構想を推し進めるべく動き出したのだ。」

ショック療法は大胆な進化を遂げた
「既存の公的企業を民間に売却する九〇年代の手法とは違い、ブッシュ・チームは、「テロとの戦い」という名目のもと、初めから民営化を念頭に置いたまったく新しい枠組みを構築したのである。
それには二つの段階があった。
まず、ホワイトハウスは9・11の衝撃で引き起こされた国民の恐怖感情を利用し、警察、監視、拘束、戦争遂行といった政府の権力を大幅に強化する ー 軍事史研究家のアンドルー・ベースヴィツナが「波状クーデター」と呼んだものだ。
次に、潤沢な資金を投入されて拡大したセキュリティー、侵攻、占領、復興といった新事業がただちに外部委託され、利潤追求を目的とする民間企業へと手渡されていった。」

フリードマンが提唱してきた反革命的経済政策はここで頂点に達した。
「表向きはテロリズムとの戦いを目標に掲げつつ、その実態は惨事便乗型資不義複合体、すなわち国土安全保障と戦争および災害復興事業の民営化を担う、本格的なニューエコノミーの構築にほかならなかった。
その使命は、国内外に民営化されたセキュリティー国家を構築・運営することにある。この大々的な経済刺激策は功を奏し、グローバリゼーションとインターネット関連事業のブームの波が引いたあとのアメリカ経済に活を入れた。インターネットがドットコム・ビジネスのバブルを生んだように、9・11は惨事便乗型資本主義のバブルを生んだのだ。」


「公の論議も正式な政策決定手続きもないまま、請負企業は事実上、国家の第四権力にのし上がった」(『ニューヨーク・タイムズ』2007年2月)
「こうした一連の動きのなかでもっとも効果を発揮したイデオロギー・ツールは、アメリカの国内および対外政策において経済イデオロギーはもはや主要な動機ではない、という主張だった。
市場原理主義者や彼らが利益増大に手を貸す企業にとって、9・11以降変化したことと言えば彼らの野心的戦略の追求がやりやすくなったことだけだったにもかかわらず、「9・11がすべてを変えた」という大合唱がその事実を都合よく覆い隠してくれたのだ。
かくして新たな政策を議会の討論にかけることもなければ公務員労組との厄介な対立もなく、ブッシュ政権は国民の愛国的団結心を後ろ盾とし、”言葉よりも行動”というメディアの論調を味方につけ、フリーパスを手に入れた。」


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