2012年10月9日火曜日

「愛国教育は諸刃の刃――中国共産党体制に潜む危うさ」(日経ビジネスオンライン 遠藤誉)


日経ビジネスオンライン
愛国教育は諸刃の刃――中国共産党体制に潜む危うさ
「戸籍」という“安全装置”はもう機能しない
遠藤 誉 2012年10月9日(火)

「毛沢東」か「毛主席」か

 今回は「釣魚島(尖閣諸島に対する中国側の呼称)国有化に反対する」という横断幕と同じ程度に、毛沢東の肖像画が最初から目立った。しかも「毛主席よ、早く帰ってきてよ!」という言葉に見られるように、標語には「毛沢東」ではなく「毛主席」という表現が目立つ。

 つまりデモ参加者が「国家主席」として崇めているのは「胡錦濤国家主席」ではなく、かつての「毛沢東国家主席」だという意味である。

 デモ隊が「毛沢東」と書いているか、それとも「毛主席」と書いているか、この微妙な違いに注目しなければならない。

見えざる最大の弱点

 実は中国の見えざる最大の弱点は、「未だに毛沢東の位置づけと論議を真正面からは行っていない」という事実なのである。

今回のデモに大学生がほとんどいない理由

では、どういう種類の若者が暴徒化するのか。
 それは「失うものを持っていない若者たち」である。

戸籍にまつわる誤解を解く

 だからと言って、都会に出た農民工が「都市戸籍」を持てないために鬱憤(うっぷん)がたまるという現実はない。ここは誤解が多いので説明をしておきたい。

 そもそも1990年代の後半からインターネットが普及し、中国全土のどこにいようと、世界の裏側にいようと、情報は瞬時に共有できるようになった。都市戸籍だ、農村戸籍だと、「移動の自由」を奪うことによって同一意見の持ち主がグループ化するのを防ぐ時代は終わったのである。

 その結果、新世代農民工は、福祉や戸籍においても、都会にいる若者と同等になっている。

 にもかかわらず、二極化された貧富の間にあるギャップ。
 豊かになるチャンスは、共産党幹部の周りに集中しており、そこに利益集団が形成されている。
 新世代農民工の怒りはここにある。

「何とか政府を困らせてやれ」

 何名かが「デモは政府に雇われてやったんだと微博(ウェイブォー)に書いてやれ」という提案をした。「微博」とは中国版ツイッターである。「それがいい、それがいい」という反応があったかと思うと、たちまち本当に微博に「一日いくらで雇われた」という書き込みが現れた。

 舞台裏を実体験しながら、事態の推移を見守っていたところ、日本のメディアに「あのデモは政府のやらせだった」というニュースが流れた。まんまとはまった感じだ。

 中国政府が恐れているのは、そういう「やらせ」とか「やらせでない」とかといったレベルのことではない。

 ましてや「党内派閥闘争のために誰かがやらせた」というデマでもない。
 そんなことよりも、もっと恐れている現実があるのだ。
 それは中国共産党政権を崩壊させるかもしれない「民の声」である。

矛盾の拡大をいつまで続けられるのか






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