「朝日新聞」夕刊連載「原発とメディア」255 「マネー」29
民報の電力役員
東京・台場の高級ホテルで6月末、フジテレビの親会社「フジ・メディア・ホールディングス(HD)」の株主総会が開かれた。
「福島の原発事故を見れば、監査役なんてできない」。
ある株主がHDの社外監査役・南直哉(のぶや、76)の辞任を求めた。
南は元東京電力社長。
複数の原発の自主点検データを改ざんした2002年の「トラブル隠し」を受け、社長を辞任。
その後、HDの監査役に就いていた。
辞任を求めたのは、日本工業新聞(現フジサンケイビジネスアイ)元社員の松沢弘(65)。
リストラ策に反対する労組を立ち上げた後に解雇され、今も訴訟で争う。
総会は非公開だった。松沢や終了後に報道対応したHDの広報部長によると、松沢は辞任を求めた理由をこう語った。
「南さんが監査役にいることで、フジの報道現場は(原発報道で)萎縮している」。
これに対し、HD側は担当役員が「南監査役は企業経営者として豊富な経験、知識を有し、当社のガバナンスを充実させる職責をしている」「萎縮するのでは、とありましたが、まったくない」と答えた。
質問を続けようとする松沢に対し、議長を務めたHDの会長日枝久(74)は「簡潔に」などと言い、打ち切ろうとしたという。
松沢は今も思う。「会長と南さんの親しい間柄をみれば、社員がそれに影響されないわけがない」
フジだけではない。
テレビ東京ホールディングスの社外監査役の一人は東電元会長・荒木浩(81)。
テレビ朝日は原発事故後の11年5月まで、東電会長だった勝俣恒久(72)を放送番組審議会の委員に迎えていた。
愛知の主要5局のうち4局は役員、残る1局は放送番組審議会の委員を中部電力から受け入れている。
放送番組審議会は放送法に基づいて設置され、委員からの番組への意見を局側は尊重するとされる。
「日本民間放送年鑑2010」を調べると、掲載された202社のうち、主要株主に電力会社名、番組審議会委員に電力会社幹部らの名前が確認できたのは、少なくとも61社あった。
年鑑は役員の就任状況について詳しく書いておらず、電力会社からの役員を含めれば両者の関係はさらに濃くなるはずだ。 (編集委員・小森敦司)
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