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安倍政権の危うい“金融偏重” 市場は好感も過剰な期待は禁物!?
2013.01.30
連載:森岡英樹の金融スクープ
安倍晋三政権は「アジアナンバーワンの金融・資本市場の構築」を掲げ、金融業が生み出す経済価値を国内総生産(GDP)の10%まで引き上げることを目指すという。現在の同比率は5・8%で、ほぼ倍増を目指す。英国シティの比率をも上回る意欲的な目標だが、危うさもある。
かつて金融庁は「金融立国」を目指し、東京を英国シティと肩を並べる国際的な金融センターに育成しようと試みた。自民党政権下の2007年12月には「金融・資本市場競争力強化プラン」を作成し、具現化に向けて動きだそうとした経緯がある。だが、その矢先にリーマン・ショックが起こり、構想は先送りされた。5年を経て同戦略の再現というわけだ。
今年1月1日には、東京証券取引所と大阪証券取引所が統合して、「日本取引所グループ」が発足した。さらに商品分野の取引所の統合も視野に入っている。130年の長きにわたり犬猿の仲であった東証と大証の統合は、「金融立国」への脱皮を予感させるが…。
米国はサブプライムローン問題が浮上するまで、いわゆる金融バブルの状態にあった。当時、金融業が生み出す経済価値はGDPの約2割を占めた。主導したのはマネタリストであったグリーンスパン。今にして考えると虚業の金融が経済価値の2割を占めるのは異常で、当然のように金融バブルは崩壊した。
当時、米国では住宅ローン債権をはじめとする各種の債権が証券化され、金融商品として販売されたが、粉飾まがいの劣悪な商品も少なくなかった。その結果がサブプライムローン破綻であり、リーマン・ショックへとつながっていったのは記憶に新しい。
他方、安倍政権のブレーンはエール大の浜田宏一名誉教授をはじめとするマネタリストの面々。やろうとしているのはリフレ(通貨再膨張)で、かつての米国のグリーンスパン時代をほうふつとさせる。市場は円安・株高で応えているが、過剰な期待は禁物かもしれない。
安倍政権は、大胆な金融緩和、国土強靭化計画に代表される公共事業、そして成長戦略の「3本の矢」を打ち出しており、金融と実体経済を車の両輪として活性化させる方向にある。金融緩和のみが突出するリスクも十分に視野に入れてのことだろう。それでも、金融分野の施策に偏重している感は拭えない。
デフレ脱却に向け、日銀は2%の物価上昇率を目標にし、実現に向けて責任を政府と共有するという。日銀の資産規模は一層拡大するため、「おなかを大きく膨らませたカエルの腹がさらに膨らみ続ける」ようなものだ。「ゆでガエル」になる前に、「ぬるま湯から抜け出るカエル」となればいいが、その前にカエルの腹が爆発する危うさも秘めている。
それとも同じように危機的な水準にまで積み上がった財政赤字という「もう一方の膨れ上がったカエルの腹」をインフレでチャラにする「財政赤字のインフレ調整」か、いずれにしても大胆な挑戦だ。
■森岡英樹(もりおか・ひでき) 1957年、福岡県出身。早大卒。経済紙記者、埼玉県芸術文化振興財団常務理事などを経て2004年4月、金融ジャーナリストとして独立。
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