2013年5月11日土曜日

「改憲論議 急ぐな。 国民の判断を待て」(清水まり子) 日本国憲法はGHQの押し付けだったのか?


2013-05-09付け「朝日新聞」
改憲論議 急ぐな。 国民の判断を待て     清水まり子
(段落、改行を施す)

 日本国憲法は連合国軍総司令部(GHQ)の押し付けと言われることがあります。
そうでしょうか。
いま改憲に向けた動きがあるなか、一つの歴史的証書を提示することには意味があると考えます。

 私の手元に、1956年の参議院内閣委員会の審議に参考人として呼ばれた鈴木義男衆院議員の「私の記憶に存する憲法改正の際の修正点」という公述速記があります。
鈴木氏は日本国憲法公布後すぐの片山・芦田両内閣で司法大臣及び法務総裁を務め、戦前から戦後への法体系の大変革時に主翼を担った人物です。

 鈴木氏は発言の冒頭、当時の改憲勢力について「改正論者の本当の目的とするところは、天皇制のある意味の復活、第9条の大改正、家族制度の復活、こういうふうなところにあると思う」と述べ、「これらだけを持ち出すと抵抗があまりに強いので、カムフラージュするために項目をたくさん並べて焦点を多岐にわたらせて、なるほどと思わせて主たる狙いを完遂してしまおうというのであり(略)」と反対を明言します。

 続いて、戦後の民主主義国家にふさわしい憲法案を日本側は提示できず、GHQ草案が作成された経緯。民間の憲法研究会案がそれに似ていたという事実を証言。
また、GHQのケーディス大佐から、GHQ案について「日本国民が、そして国会の代表者が、本当に日本のために良いと思うところがあるならば、反動的に封建的に直すのは賛成できないが、直すことは結構であり、少しも拒むつもりはない、大いに修正してよい」との言質をとったと言います。

 特筆すべきは、憲法制定の2年後、法務総裁の時に極東委員会から憲法改正を進めてよいという指令があった点です。
鈴木氏は衆・参両院議長に諮り、法制局でも改正点の調査を命じたと述べ、「修正したいところがあったら申し出よといったけれども、いやよくできている、修正するようなところはない。どこへ行って聞いてもそういう御意見であった」と強調。
さらに、当時の国民が日本国憲法を歓迎したとも証言しています。

 日本国憲法の意義を思う時、十分な憲法理解の土壌が培われてきたかは疑問です。
違憲状態にある国会議員によって改憲が論議される今、国民が憲法を精読し評価する時間が必要です。
憲法制定権は主権の存する国民側にあり政府にはないからです。
それこそ、辛酸をなめ現在に至る道筋を作ってきた先人への、私どもの礼儀と責務です。

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