2013年1月20日日曜日

東電に99億円請求した被ばく米兵8人の代理人弁護士に聞く(WSJ)

ウォールストリートジャーナル 
肥田美佐子のNYリポート2013年 1月 18日 18:36 JST
東電に99億円請求した被ばく米兵8人の代理人弁護士に聞く

(略)

 ――東電が虚偽の情報を流し、安全性を強調したことで、乗組員が被ばくし、健康を害したとの主張だが、訴訟に至った経緯を教えてほしい。

 ガーナー弁護士 原告の一人である女性乗組員(リンジー・クーパーさん、23)の父親が、娘の体調が悪いと言って訪ねてきたのが、そもそもの始まりだ。彼女は、震災直後、ロナルド・レーガンの飛行甲板で「トモダチ作戦」に携わっていたが、かつてないほど体重が増加し、体調もすぐれなかった。精神的なものなのか、肉体的なものなのか、父親は非常に心配していた。

 調査していくうちに、ほかの乗組員のなかにも具合の悪い人がいることが分かった。何かに集中できなくなったり、体重が急増したり、逆に体重が約14キロ激減したり。激やせした女性は、胆のう摘出の手術を余儀なくされた。腸からの出血や鼻血、甲状腺に問題が生じた人も複数いる。原告は、全員20代の若者だ。いずれも以前は健康だったが、徐々に症状が進み、ある時点で顕著になった。連日、片頭痛に襲われるようになった人もいる。

 ――症状と被ばくとの因果関係を診断したのは、米海軍専属の医師か。

 ガーナー弁護士 違う。米海軍は、当時、被ばく線量は最小限に抑えられていたという見解に終始している。自然光の下で30日間くらい浴びる程度の放射線量だった、と。だが実際は、非常に高かった。4基の原子炉がメルトダウン(炉心溶融)し、放射性物質が飛散した。

 被災地支援に駆け付けた乗組員たちは、ヘリコプターでロナルド・レーガンに戻ると、自分たちの除染作業をしなければならなかった。安定ヨウ素錠を飲み、着替え、体を洗浄した。だが、(有害な物質を体内から排出する解毒治療である)キレート療法は行われなかった。ヨウ素剤も、乗組員全員には行き渡らなかった。2年たたないうちにこれだけの症状が出ているのだから、今後も様子を見続けるべきだというのが、わたしの見解だ。否定論者は、何を以てノーと言うのか理解できない。

 症状が顕在化している人は急増している。(ロナルド・レーガンが属する)米第7艦隊だけでなく、米海軍駆逐艦「プレブル」、原子力空母「ジョージ・ワシントン」など、「トモダチ作戦」にかかわった軍用船の乗組員らだ。

 診断に当たったのは、非常に高名な米国人の環境毒物学者兼内科医で、(08年)ニュージャージー州の住人がフォード自動車を相手取って起こした(集団訴訟の)クラスアクションにもかかわったことがある。同州の組み立て工場から廃棄された有害化学物質が飲料水に流れ込み、何百人もの住人ががんになったケースだ。

 ――被ばくと健康被害の関係は立証が難しいと言われるが、その医師が、今回の訴訟についても因果関係ありと判断したのか。

 ガーナー弁護士 そうだ。関係がある可能性のほうが高い、と結論づけられた。もっと多くの症例が出れば、(立証が)容易になるという。現在、調査を進めている最中だが、何らかの症状が出ている乗組員は、すでに40人を超えている。骨や骨格組織の衰弱などが見られる人もいる。単なる偶然にしては、人数が多すぎるだろう。医者は、因果関係があるという認識を日ごとに深めている。これは、独断や根拠なき主張ではない。

 被告である東電の回答期限(2012年12月21日の提訴から60日間)以内に、追加の訴えを起こすつもりだ。これから(病気が)どうなるか、誰にも確かなことは分からないが、治療が必要になることだけは間違いない。退役軍人管理局は、イラクやアフガニスタンからの帰還兵への補償さえ不十分である。被ばくした乗組員への対応となれば、なおさらだ。

 ――ロナルド・レーガンには、原子炉が2基搭載されている。乗組員らは、放射能や被ばくに関する知識が豊富だったのではないか。

 ガーナー弁護士 空母の原子炉に問題が生じた場合の心得はあったかもしれないが、原発事故の救援については、何の訓練も受けていなかった。ヘリコプターやジェット、レーガンにも放射線測定器はあったが、(当時の情報では)害はないと思っていた。

 当初から、東電は問題の程度を軽視していた。組織的な詐欺行為だ。彼らは現場にいた。何が起こっているのか知っていたはずだ。もし自宅で事故が起こり、どのくらい危険か知っていたら、救援に来る人たちに警告するのが務めであるのと同じことだ。

(昨年4月、第1原発を視察した米上院エネルギー委員会の)ワイデン米上院議員は、帰国後、その惨状について注意を喚起し、食物連鎖にも言及している。

 「わたしたちのために東電と闘ってほしい」と、日本人からも連絡を受けているが、それはできない。まず日本には(ある者が、法的利害関係を共有する別の構成員の許可なしに、代表として提訴できる)クラスアクションが認められていない。

 (略)
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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト


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