東京 北の丸公園 2012-07-10
*ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(17)
「序章 ブランク・イズ・ビューティフル - 三〇年にわたる消去作業と世界の改変 -」(その6)
次なるアウトソーシング化は人道的救済および復興事業
イラクでの事例が先駆けとなり、営利を目的とした救済事業や復興事業は今や世界の新たな規範と化している。
しかも救援や復興の対象は、戦争の先制攻撃(・・・)やハリケーン襲撃などの第一次災害による被害だけとは限らない。
資源不足や気候変動によって確実に惨事が増加するなか、緊急事態への対応は、もはや非営利団体に任せておけない急成長市場となったのだ。
ユニセフ(国連児童基金)が学校を建設する必要などない、全米有数の建設会社ベクテルが請け負えばいいではないか。
ミシシッピの被災者は観光用のクルーズ船にでも収容すればいいのであり、なにも市内一等地に建つガラ空きの公営住宅に住まわせることはない。
国連平和維持軍をスーダンのダルフールに送り込まなくとも、仕事を欲しがっているブラックウォーターのような民間セキュリティー会社に任せればいい - 。
これぞまさに9・11以降に訪れた変化だった。
かつてであれば、戦争や災害がビジネスチャンスと結びついたのはごく一部の企業、たとえば戦闘ジェット機のメーカーや、爆破された橋を再建する建設業者ぐらいだった。
ところが、戦争はそれまで参入できなかった市場を開放して戦後の活況へと道を開く、という重大な経済的貢献を果たし、今日では戦争や災害の救済・復興事業は全面的に民営化され、新たな市場を形成している。
活況の到来を戦争が終わるまで待つ必要はない。
このポストモダン的なビジネス・アプローチには、失敗はありえないという明確な利点がある
二〇〇六年、エネルギー・サービス企業ハリバートンの四半期収益がぐんと伸びたことに関し、ある市場アナリストは「期待した以上にイラク〔侵攻〕は吉と出た」とコメントした。
アナリストがこのコメントを口にした二〇〇六年一〇月は戦闘がもっとも激しさを増し、イラク民間人の死者が三七〇九人に上った月である。
それでもハリバートンの株主にしてみたら、二〇〇億ドルの収入を同社にもたらしてくれた戦争は万々歳というわけだ〔テキサス州に本社を置く同社は、石油パイプライン整備などイラク復興事業で数百億ドル規模の仕事を米政府から受注。ディック・チェイニー副大統領が同社の元最高経常責任草(CEO)だったことから、受注契約を疑問視する声も上がった〕。
細部まで完備したニューエコノミーが出現した
9・11後にブッシュ政権が施したショック療法の結果、武器取引や傭兵派遣、営利目的の復興事業、セキュリティー産業といったビジネスが隆盛をきわめるなかから立ち現れたのは、細部まで完備したニューエコノミーだった。
それはブッシュ政権下で確立されたが、今やいかなる政権とも切り離されて存在している。
今後も、その基盤にあるのが企業至上主義イデオロギーであることが明確化され、それに対する異議申し立てが行なわれない限り、確固とした形で存在し続けるだろう。
この産業複合体の主役はアメリカ企業だが、グローバルな広がりも持つ。
イギリスの企業は監視カメラ分野での実績を、イスラエルの企業はハイテク・フェンスや壁の建設技術を、カナダの材木業界は地元で製造するより数倍も高いプレハブ住宅を、それぞれ売り込んでいる。
「いまだかつて災害の復興事業を通常の住宅市場と同一視した人などいなかった。これは長期的な多角化戦略だ」と、カナダの林業貿易団体代表のケン・ベ-カーは語る。
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