THE WALL STREET JOURNAL 2012/7/20 15:10
反原発デモにどこか人ごと―野田首相は「負の遺産」と認識
野田佳彦首相は、毎週金曜日に首相官邸前で行われている原発再稼働への抗議デモについて「多くの声をしっかりと受け止めていきます」と述べている。しかし、原発問題は自民党政権時代の「負の遺産」との思いが強いようだ。6月29日のデモに関して「大きな音だね」と周囲に語ったことは、まさにそうした心境を表している。
この発言が批判されたことから、反対意見にも耳を傾ける姿勢を示すようになったが、「首相に反対意見を受け入れる考えは現時点ではない」とある政府関係者はみている。
原発の開発については1950年代半ばから議論が始まり、自民党の長期政権下で推進されたことを考えると、野田首相の言い分も理解できなくはない。しかし、2009年8月の総選挙で政権を奪取してからすでに3年近くたつ。国家には継続性があるのに、今もなお自民党政権時代の「負の遺産」として片付けられるだろうか。
7月5日の国家戦略会議では、日本経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)が、産業界を代表する立場から「政府が考えているような名目3%、実質2%というような(経済)成長が達成されたら、完全に電力不足に陥ってしまう。誰が責任を持って電力を供給するのか」と原発再稼働の必要性をあらためて強調している。
「ご説ごもっとも」といわんばかりの表情で米倉会長の発言に聞き入っていた野田首相は、日本経済の成長に支障がないよう電力供給に尽力しているのに、それを批判されるのは理解できないというのが本心のようだ。
とはいえ、外見上の対応は迅速だ。将来のエネルギー政策に関する国民の意見聴取会で、電力会社勤務という男性が原発を擁護する立場から意見を表明したことは、原発を推進したい政府による「やらせ」と批判されたため、今後開催予定の公聴会では電力会社勤務の参加者の発言は制限する方針だ。
過去最大規模のデモ集会が行われるなど反原発活動の広がりをみせていることについて「政権にはボディーブローのように効いている」と同政府関係者は話している。ただし、首相経験者の一部から国民との対話を進言されているものの、野田首相にその意志はなさそうだ。
記者:吉池 威
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