2012年7月30日月曜日

放射能汚染 「不検出」はゼロのことだと思ってませんか? ゼロじゃないです。

東京新聞
不検出=ゼロじゃない 食品中のセシウム検査 
2012年7月30日

 食品中の放射性セシウムの検査結果で、「不検出」という言葉の使われ方があいまいだ。測定器で検出できる下限値を下回ったことを意味するだけで、ゼロベクレルを指すわけではない。農家らが運営する測定室は、下限値をゼロに近づける努力をしているが、自治体やスーパーなどによっては、一キログラム当たり二〇ベクレル前後のところもある。不検出の意味を知っておく必要がある。 (伊東治子)
 神奈川県座間市で二十年以上、農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てている大木秀春さん(45)は、放射能測定器を購入し、五月に生産者向けの測定室を開いた。購入費用の百六十万円は車を売って捻出した。
 八~十時間かけて作物や土壌の検査をすることで、検出できるセシウムの下限値を二~三ベクレルに下げている。「ゼロベクレルであると、ほぼ確認できた野菜しか出荷しない」と大木さん。こだわるのには理由がある。
 農業を始めて二年目の秋、突然、目がかすんで、三日後には近くにいる人の顔を見分けられなくなった。大学病院で「原因は農薬。失明する可能性がある」と診断された。だが、原因とみられる三種類の農薬のうち、二種類は年一回しか使っていなかった。「少量で影響が出る人もいる。農業をやめた方がいい」と医師は勧めたが、あきらめきれず、作る側と食べる側にとって安全な農業を追求してきた。
 「農薬と同じように、わずかな放射能でも、人によっては健康被害が出るかもしれない。自己満足かもしれないが、しっかりと測定したい」と大木さんは話す。
 相模原市で有機食材などを販売する高岡章夫さん(56)は「孫に食べさせたくないものは売りたくない」との思いで、昨年八月に測定室を開設した。検査に十時間以上かけ、さらに二百キロの鉛で測定器を覆って環境放射線の影響を受けにくくすることで、一・五ベクレルまで測れるようにした。
 同県の農家の男性(40)は昨年秋、収穫した蜂蜜を独自に検査機関で測ったら六ベクレルだった。迷ったが、「自分だったら食べたくない」と考え、出荷しなかった。男性は「自治体の検査だったら、不検出になったかもしれない。消費者には不検出の意味をちゃんと知ってほしい」と話す。
◆自治体検査体制 国の支援が必要
 食品に含まれるわずかなセシウムに、厳しい目を向ける農家や市民。一方、厚生労働省は、自治体が簡易検査する際の下限値を二五ベクレル以下と定めている。このため、自治体やスーパーなど測定者によっては、二〇ベクレル前後の下限値を下回った食品については、下限値を示しながら「不検出」と表示している。
 ある自治体の担当者は「国の基準値の一〇〇ベクレルを下回っているかどうかの検査なので、下限値が二〇ベクレルでも一〇ベクレルでも変わりない。多くの食品を調べるには、一つの食品に三十分以上かけられず、下限値を二〇ベクレルより低くするのは難しい」と話す。
 これに対し、日本消費者連盟の古賀真子共同代表は「食品が放射能に何ベクレル汚染されているかを知るのは、消費者の権利。不検出という表示はおかしい。下限値が二五ベクレル以下では高すぎる。国は自治体の検査体制を支援して、もっと下限値を低くするとともに、消費者が持ち込んだ食品も測定できるように体制を整えるべきだ」と指摘している。

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