東京 北の丸公園 2012-07-27
*昭和17年(1942)
7月12日
・七月十二日 日曜日 夜深川を歩す。門前仲町邊森下町邊いづこも草市立ちで賑なり。稲妻頻に閃き雷雨來らむとせしが遂に來らず。電車停電すること再三なり。金兵衛に立寄るに清潭子ひとり盃を傾くるを見る。高濱虚子播磨屋のために脚本北條時宗を執筆せしと云。
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7月13日
七月十三日。晴れて涼し。中河與一その著香妃を贈らる。
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7月14日
七月十四日。晴。木村富子木綿たほるを贈らる。いつぞや拙句を書送りし返禮なるぺし。熱海木戸氏小星來訪。牛酪を贈らる。共に金兵衛に至りて飰す。
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7月15日
七月十五日。半晴。町會の役員來り防空用古樽金七圓、莚一枚四圓ヅゝを取りに來る。高価驚くぺし。晩間金兵衛にて高橋邦氏に逢ふ。歸途烏森の妓家既に送火を焚くを見る。
送火や日のちゞまるもこの夜から
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7月16日
・七月十六日。晴れて風甚冷なり。暑中不順の冷気今年もまた去年の如くならん歟。夕飯の後淺草公園を歩む。盆の人出おびたゞし。
此日税務署の通知を見るに本年はまた去年よりも多く一回分六百二十三圓四拾銭、一年分にて金弐千四百九拾参圓六拾銭となるなり。余が實収の三分の一は税金として取上げらるるなり。
戦争の被害いよいよ甚しくなれり。世の噂をきくに日本橋通の山形屋淺草堀田原の池田園等江戸時代よりの舊家いづれも税金の負擔に堪えず閉店せし由。
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7月17日
七月十七日。陰後に晴。午後土州橋に行く。
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7月18日
七月十八日。晴。蝉聲漸く多し。
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7月19日
七月十九日 日曜日 晴。暑甚しからず。鴎外全集評論の部をよむ。
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