東京 北の丸公園 2012-07-10
*ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(18)
「序章 ブランク・イズ・ビューティフル - 三〇年にわたる消去作業と世界の改変 -」(その7)
惨事便乗型資本主義複合体は90年代のITブームに匹敵する新興成長市場である
関係者によれば、取引はドットコム時代よりも活況を呈し、「セキュリティー・バブル」はITバブル崩壊後の低迷を補う勢いだという。
右肩上がりを続ける保険産業(アメリカだけでも二〇〇六年の収益は過去最高の六〇〇億ドルと予想)や膨大な収益を上げる石油産業(新たな危機が起きるたびに収益はアップしてきた)も相まって、惨事便乗経済は9・11以前の深刻な不況から世界市場を救ったと言っていい。
フリードマンは自らを「リベラル」だと称したが
フリードマンは自らを「リベラル」だと称したが、リベラルという言葉からはせいぜい高い税金とヒッピーぐらいしか連想できないアメリカのフリードマン一門は「保守派」「古典派経済学者」「自由市場派」などと自称し、のちには「レーガノミクス」あるいは「自由放任主義(レッセフェール)」信奉者だと名乗ってきた。
世界の大部分の地域では「新自由主義(ネオリベラル)」として認知され、しばしば「自由貿易」あるいは単に「グローバリゼーション」とも呼ばれる。
彼らが「新保守主義(ネオコンサーバティブ)」と自称するようになったのは九〇年代半ばになってからのことで、それを率いたのがフリードマンと長く関係があったヘリテージ財団やケイトー研究所、アメリカン・エンタープライズ研究所などの右派シンクタンクである。
アメリカの軍事機構を企業の論理に追従させたのが、このネオコンの世界観にほかならない。
ひと握りの巨大企業と裕福な政治家階級との強力な支配同盟
名称は数々あれども、すべてに共通するのが、公共領域の縮小、企業活動の完全j自由化、社会支出の大幅削減、という三位一体の政策である。・・・
フリードマンはその経済構想を、市場を国家から解き放つ試みだと説明したが、彼の政策を実行に移したときに現実世界で起きたのは、それとはかけ離れたことだった。
過去三〇年以上にわたり、シカゴ学派の政策を実施した国々で例外なく台頭してきたのが、ひと握りの巨大企業と裕福な政治家階級との強力な支配同盟である。
この二者を隔てる境界線は暖味であり、固定もしていない。
ロシアでは政治家と癒着した大富豪は「新興財閥(オリガルヒ)」と呼ばれる。
中国では「太子党」〔太子は、特権階級の子弟を指す〕、チリでは「ピラニア」と呼ばれ、アメリカではブッシュ=チェイニー陣営が「パイオニア」と呼んだ。
彼ら政治エリートと企業エリートは市場を国家から開放するどころか、かつて公共領域にあった貴重な国家資産 - ロシアの油田から中国の公有地、イラクにおける入札なしの復興事業契約に至るまで ー を私物化するべく、互いに便宜を図ってきたのだ。
コーポラティズム
「大きな政府」と「大きな企業」の境を取り払おうとするシステムにふさわしい名称は「リベラル」でもなければ「保守」や「資本主義」でもなく、「コーポラティズム」である〔この用語に関しては第3章で説明〕。
コーポラティズムは、膨大な公共資産の民間への移転(往々にして莫大な負債を伴う)、とてつもない富裕層と見捨てられた貧困層という二極格差の拡大、そして安全保障への際限ない出費を正当化する好戦的ナショナリズムをおもな特徴とする。
このようにして生み出された巨大な富のバブルの内側にいる者にとっては、これほど収益性の高い社会構造はほかにない。
だが、バブルの外側にいる大多数の人々は明らかに不利な立場に置かれるため、コーポラティズム国家は露骨な監視活動(ここでもまた政府と大企業が互いに便宜を図り、契約を交わす)、大量の人々の監禁、市民的自由の制限、さらには多くの場合、拷問という特徴を持つことになる。
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