2013年1月15日火曜日

日米地位協定の運用「改善」の限界 女性暴行8割逮捕せず 米兵凶悪犯罪

琉球新報
地位協定「改善」限界 米兵凶悪事件不拘束
2013年1月15日            
 
「取り決め」機能不全に/日米は改定協議回避
 1995年の少女暴行事件をきっかけに運用改善された日米地位協定の取り決めが機能不全に陥りかけている。強姦(ごうかん)罪で摘発した米兵被疑者について、起訴前の身柄引き渡しを求めず、8割強を不拘束のままで事件処理していた。日本政府は地位協定の抜本的改定を求める沖縄側に対し、「運用改善で対応する」として米側との再協議に後ろ向きだが、世論の反発を受けて95年にまとめた「運用改善」さえ、完全に権利を行使できていない弱腰の姿勢が浮き彫りになった。95年の運用改善は、起訴前の身柄引き渡しが「殺人」「強姦」にのみ限定されている上、実際の身柄引き渡しについても米側の裁量が優先されることから県民の根強い不満が残ったままだ。

 仲井真弘多県知事も2012年10月に本島中部で発生した米海軍兵による集団女性暴行致傷事件を受け、相次ぐ米軍関係者絡みの犯罪の根底に地位協定による米軍人・軍属の身分の保障があるとの認識を強めた。知事は、10月の訪米時に国務省のキャンベル国務次官補、国防総省のリッパート国防次官補に対して地位協定の抜本的な見直しを訴えた。両次官補は会談の場でこそ「長官に報告する」と神妙な面持ちで応じたが、要請に対する回答はなく、地位協定に関する議論を避けたい米側の思惑が透けて見えた。

 国防総省は本紙の取材に「やむを得ない相当な理由がない限りは(改正に向けた)再交渉は避けている」と述べるなど、「問題なし」との姿勢だ。

 米側のこうした認識を支えているのは、「改善の積み重ねを続けてきたし、積み重ねが大変重要だ」(岸田文雄外相)として、沖縄側の抜本的改定を求める声に背を向けている日本政府だ。

 外務省のホームページによると、95年の運用改善以降、起訴前の身柄引き渡しを要求したのは、96年に長崎県で発生した強盗殺人未遂事件をはじめ、強盗殺人事件で2人、女性暴行事件の3人、同未遂事件の1人の計6人で、ほとんどが全国レベルで注目を集めた事件。「殺人」「強姦」の被疑者計33人のほとんどは主権者の国民が知らないまま、不拘束で事件処理されてきたのが実態だ。米側に正当な権利を主張することさえも恐れ、自国の被害者や遺族感情をないがしろにしてきた印象は拭えない。

 岸田外相は12月27日未明の会見で「領土主権に関わる問題については断固たる態度で臨んでいかなければならない」と述べ、尖閣諸島や竹島をめぐり中国や韓国に対し毅然(きぜん)とした態度で対応する姿勢を示したが、米国に対しても日本側の主権を断固として主張できるか。安倍政権の「主権」に対する本気度が試されている。(ワシントン特派員・松堂秀樹)

日米地位協定が問題となった県内の主な事件・事故


琉球新報
2013年1月15日              

 【米ワシントン14日=松堂秀樹本紙特派員】
 在日米軍の兵士や軍属の法的地位を定めた日米地位協定で、米軍関係者による「強姦(ごうかん)」が起訴前の身柄引き渡しの対象とされているにもかかわらず、1996年以降に摘発された米兵35人中、8割強に当たる30人が逮捕されず、不拘束で事件処理されていたことが本紙が入手した警察庁の資料で分かった。殺人事件は摘発人員数9人中、3人が不拘束で事件処理されており、「殺人」「強姦(女性暴行)」に限って起訴前の身柄引き渡しが可能となった95年の運用改善が徹底されていない実態が明らかになった。凶悪事件の一部を公表せず、不拘束で事件処理してきた可能性もある。

 県は米軍関係者絡みの事件が相次ぐ根底に米軍に有利な日米地位協定があるとみており、日米両政府に地位協定の抜本的改定を求めている。国防総省は本紙の取材に対し「日本政府との緊密な関係の下で運用しており、日米地位協定を見直す計画はない」と回答した。

 警察庁の資料によると、96年以降に摘発した凶悪犯罪(殺人、強盗、放火、強姦)の米兵被疑者は計118人。そのうち、約半数に当たる58人が不拘束で事件処理されたことが記録されており、身柄は起訴された後に日本側に引き渡されたとみられる。

 殺人事件は、2006年に神奈川県で派遣社員の男性=当時(56)=が一等空曹の男に殴る蹴るの暴行を受けて死亡し現金が奪われた事件など、96年~11年までに9人を摘発。逮捕に至ったのはうち6人だった。2011年2月に北谷町で発生した殺人事件は被害者、加害者とも米軍人だったため、第1次裁判権が米側にあり、日本側は逮捕せずに不起訴とした。強姦事件は01年に本島中部で発生した女性暴行事件など計35人が摘発されたが、30人が不拘束のまま事件処理された。

 日米両政府は95年の少女乱暴事件を受け、同年、「殺人、強姦、その他日本政府が重要と認識するもの」について、日本側当局が起訴前に被疑者の米兵や軍属の身柄の引き渡しを要求でき、米側も好意的考慮を払うとした運用改善に合意した。96年以降、日本側は神奈川県で発生した強盗殺人事件や沖縄県で発生した強姦事件など6件について起訴前の身柄引き渡しを要求。米側は02年に本島中部で発生した強姦未遂事件を「未遂」を理由に退け、その他の5件について起訴前に身柄を引き渡した。

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