江戸城(皇居)東御苑 2012-07-04
*天慶10年/天暦元年(947)
2月
・この月、鎮守府将軍平貞盛が政府に、貞盛の使者ら13人が夷狄坂丸(さかまる)に殺害されたので軍士・兵糧米を徴発して賊を討減したい、と申請した。
政府は発兵を認めず、国使(くにのつかい)を「賊地」に派遣して事実を調査するよう命じた。
貞盛が政府命令を無視して報復のため郎等らを率いて坂丸らの集落を襲撃して財物を略奪したなら、それは夷狄側の報復を誘発し、奥六都側の俘囚集落が襲撃されることになる。
北方産品の交易を請け負った武士系将軍と夷狄との交易は、このような武力紛争の危険性を伴っていた。
貴族や民衆たちから夷狄と同一視され蔑視される側面を持つ武士たちは、だからこそ夷狄に対して強烈な差別意識を持っていたと思われる。
このような状況下で、北緯40度の国境をはさんで、鎮守府側からの攻撃、北方夷狄勢力側からの報復製撃に備えて、双方に防御性集落が築かれることになったものと考えられる。
青森県十三湖畔の福島城の築城も10世紀中葉頃といわれる。
福島城は、土塁と外堀をめぐらした広大な外郭の中に土塁と内堀・外堀を備えた約200m四方の内郭を配する構造になっている。
外郭内が広大で平坦である点は、多賀城や胆沢城に似ている。土塁と堀は、福島城が実戦的防御的性格を持っていたことを示す。
多賀城や胆沢城との類似性は、福島城が夷狄から朝貢を受け、夷狄を饗応する機能をもっていたことを示すが、この築城と経営に政府が直接関与していたことをうかがわせる史料はない。
福島城は、鎮守府将軍が北海道・津軽の夷狄を鎮撫し、交易を行うための拠点として築造したのではないか。
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4月22日
・天暦に改元。
天暦の治。
天暦年間(村上天皇の治世、947~957)は、前代の延喜通宝に続いて乾元大宝(けんげんたいほう、天徳2年(958))が鋳造されて皇朝十二銭の最後となったこと、『天暦蔵人式』『新儀式』などの法典・儀式書の編纂が行なわれたことなど、律令国家の維持という動きもある。しかし、政治・社会の大きな変化がおこる時期であり、延喜年間と同じ位置付けにはできない。
■天暦の治の実態
右大臣師輔らに支えられた若い村上は、父醍醐とその時代の影響を受けて文事の風流に心を傾けた。兄の朱雀上皇も、日夜逸楽に耽っていた。2人は、承平・天慶と乱の続いた彼らにとって暗黒の年代の彼方に、父帝の延喜の繁栄を追想していた。村上は、なんとかしてその遺風を復活させたいと望んでいた。それこそが彼の政治と文事にとっての鏡であり、天皇の理想であった。
また、天皇の周辺に延喜、それに次ぐ延長の時代における空気を呼吸した廷臣・文人がかなり生き残っており、それらの人々が大乱の朱雀の世代を厭わしく感じ、延喜を慕い、そのふうの再興を願っていた。彼らの期待は、文事好みの若い村上にかけられていた。
朝廷の国政指導は極めて微弱なものとなった。
政事についての会合に大臣以下の公卿の欠席が多く、流れてしまうことが少なくなかったが、日に夜をつぐ行事・遊宴となると活気づいている。
朝廷での政務の実際、権門の家政の多くは、中級以下の貴族・官人の手に委ねられていた。
彼らは、都を出ては受領として地方民に抑圧をくわえ、収奪の限りを尽くしていた。
これらの層が天皇・権門に従順であったから、師輔ら上層の貴族は、宮廷や私邸を場とした四季おりおりの行事や遊宴に溺れ浸ることができた。
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4月26日
・藤原実頼・藤原師輔兄弟が揃って左大臣・右大臣に昇進し、父の関白太政大臣、藤原忠平と共に太政官のトップを占める。
台閣における諸氏の分布は、藤原氏の諸流あわせて9名、源氏の5名、あとは伴、小野各1名で、儒士出身の者は姿を消している。
藤原氏の勢力は、朱雀朝と比べてますます優勢かつ安定。
父関白のもとに子息4人(実頼・師輔・師氏・師尹(もろただ))がならんで廟堂にたち、しかも、2人は左・右大臣の要職を占めている。
藤原氏一門の歴史に、これほど輝かしい栄華はこれまでになかった。
良房・基経の前期摂関政治の繁栄を凌ぐものであった。
源氏のグループのなかで、権中納言に昇進して宮廷人の注視を浴びた高明(たかあきら)は、醍醐の皇子である。かれは実頼・師輔兄弟の女たちをめとり、藤原氏の主流との結合を深めていた。高明と異母兄弟の兼明(かねあきら)の2人が源氏のホープとして嘱望されていた。
先の内乱鎮定に関係のあった藤原忠文・小野好古が参議につらなっており、伴保平(やすひら)も受領の経歴を経てきていたが、かれらは老齢であった。
台閣メンバーの中で、地方行政に対して豊かな体験と識見をもっていたのは、この年に参議に起用された小野好古のみ。藤原・源の両権門によってほぼ完全に支配されていた太政官執政部にあって、かれはその父祖岑守・篁らの盛名をはずかしめない筋を通す政治家であった。"
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