2015年3月7日土曜日

倉本聰が安倍首相を「福島を見捨て東京五輪を優先させた」と怒りの告発! (伊勢崎馨 LITERA) : 「わずか4年前の、世界を震撼させたあの原発事故。悲劇の記憶が、こんなにも早く、こんなにも脆く風化してしまうのかと。僕は激しい怒りと憤りと悲しみを感じたんです」

LITERA
3・11を風化させるな! 被災地で原発で何が起きているのか
倉本聰が安倍首相を「福島を見捨て東京五輪を優先させた」と怒りの告発!
伊勢崎馨 2015.03.07

 原発再稼働、憲法改正、自衛隊法改正などと安倍政権のきな臭い政策ゴリ押しが続いているが、著名人たちがこれらに反対する動きも出てきている。宮崎駿、吉永小百合、黒柳徹子──。もともと護憲派の著名人たちでなく福島出身の西田敏行や保守派と思われてきた海老名香葉子、笑福亭鶴瓶なども憲法改正や原発再稼働に反対、安倍政権の政策を批判しているほどだ。

 そんな中、福島原発事故4年を目前にある著名人が安倍政権の原発政策に対して吠えた。
「安倍さんは福島より五輪。冗談じゃない!」

 これは「女性自身」(光文社)3月10日号に掲載された脚本家・倉本聰のインタビュー記事のタイトルだ。東京出身で北海道富良野に生活の拠点を置く倉本だが、原発事故、そして事故が既に風化し無関心となりつつある日本の現状に対して我慢ならないらしい。

「わずか4年前の、世界を震撼させたあの原発事故。悲劇の記憶が、こんなにも早く、こんなにも脆く風化してしまうのかと。僕は激しい怒りと憤りと悲しみを感じたんです」

 その怒りの矛先は、原発再稼働を、そして「アンダーコントロール発言」で東京五輪誘致を推し進めた安倍首相に向いていく。

「原発では労働力が足らないのに、国は'20年の東京オリンピック成功を優先し、その工事にどんどん労働力を投入している。ひどいですよ」

「(安倍首相のアンダーコントロール発言に)耳を疑いました。混沌とした、まだ処理中の『アンダーコンストラクション』のいい間違いではないかと思いました。冗談じゃない。何を考えているのかと」 

 実際、倉本がいう“原発収束より東京五輪に労働力を投入”という事態は現在でも進行、加速しているといっていいだろう。いや、原発労働だけではない。東京五輪は、被災地の復興にも大きな影を落としているのだ。

 被災地を取材してきたジャーナリストはその実態をこう証言する。

「原発労働者はもちろんですが、岩手や宮城の被災地の復興にも東京五輪は大きな影響を与えています。各地とも大規模な工事が必要だったため、人手不足はありました。そこにアベノミクス、東京五輪特需で、人手不足は一気に加速した。しかも、資材等も不足して価格もどんどん高騰し、復興事業を遅らせる最大の要因になっている。地元の人たちの間ではこっちは住むところもなくて困ってるのに、なんでそれをほったらかしにして五輪なんだ、という声はけっこうある」

 さらに、地元の怒りは2019年ラグビーワールドカップにも向いているという。森喜朗元首相が中心になって誘致されたこの大会だが、開催都市のひとつが被災地である岩手県釜石市に決定。そこでクローズアップされているのが釜石鵜住居復興スタジアムというハコモノの建築だ。

「このスタジアムは大会が開催されるスタジアムの中でも唯一の新設されるものです。概算工事費は約27億円と試算されています。今後はワールドカップ仕様に合わせさらに増えることも予想されますし、地元の労働力もかなり流入すると言われています」(同前・ジャーナリスト)

 釜石市は新日鉄釜石ラグビー部という名門実業団があったことから、市民も誘致に賛成の声がある一方、いまだ仮設住宅で生活を余儀なくされている被災者も多いことから、ハコモノやイベント優先に違和感を抱く被災者も少なくないという。

 さらに2016年に日本で開催される主要国首脳会議(サミット)の誘致もまた被災地に影を落としている。現在、国内の8都市が候補地として挙げられているが、その本命とされるのがやはり被災地の宮城県仙台市だ。サミットが開催されれば300億円といわれる資金流入が予想されている。この誘致に積極的な仙台市はサミット開催に向け、仙台国際センターの増設工事を決定、25億円もの税金を投入する予定だ。またJR仙台駅と仙台国際センターをつなぐ地下鉄も開通予定なのだ。

 明らかに世界に向け安倍首相が宣言した「アンダーコントロール」をアピールする狙いがミエミエの世界的イベントの開催だが、しかし、福島原発からは事故直後より高濃度の汚染水が漏れ続け、周辺の放射線量も高い数値をたたき出している。帰宅困難区域、避難区域の住民たちの現状は深刻さを増している。原発事故や周囲の状況はコントロールからはほど遠く、収束もまったく見えていない。そんななか、国や行政は被災者そっちのけで“見せかけの復興”に邁進している。 

 こうした現状には倉本でなくても怒りと憤りがわきあがってくるが、倉本は脚本家としてこの状況に抗しようとしている。震災の数年前から「テレビに絶望した」と脚本家としての仕事をセーブ、一時は引退説まで囁かれていたが、この惨状を見て原発事故をテーマにした舞台「ノクターン──夜想曲」を上演、現在も全国で巡演する予定だ。

 舞台は東日本大震災から数年後の福島。津波で娘を亡くした原発作業員など近親者を失った男女が、震災のときの後悔や故郷を奪われた悲しみを表現し、原発事故の理不尽さを浮かび上がらせるものだ。

 倉本は、東北地方のブロック紙「河北新報」(2月19日付)にも登場し、原発に対してこう憤っている。

「想像してみてほしい。ささいな私欲。倫理を忘れた成功の快感。わずかな金銭につながる欲望。それらが福島の原発施設から小さなセシウムの粒となって飛び出し、日本や世界を脅かしていることを」

 原発事故から4年、原発再稼働や表層的復興アピールのため労働者不足など深刻な問題が山積みの福島第一原発だが、その現状に目を向ける者はどんどん少なくなっている。しかし、福島の問題はけっして、一地域の問題ではない。私たち国民ひとりひとりが、放射能に汚染された福島を、日本の国土をどうしたら取り戻せるのかを考えないと、そのツケは将来、必ず自分たちに返ってくるだろう。

(伊勢崎馨)




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