2013年2月9日土曜日

繰り返すな、6年前の誤り-安倍新総理は賃上げに動くべきだ- 「企業だけが豊かになり、国民の生活が良くならなかった」





富士通総研 根津 利三郎
繰り返すな、6年前の誤り (1) - 安倍新総理は賃上げに動くべきだ -
2013年1月29日(火曜日)

(略)
1. 国民の関心は常に自分たちの暮らしぶり

 なぜ安倍氏率いる自由民主党は、あの時点で選挙に大敗したのか? それを想い起すことは今の安倍総理にとって極めて重要である。先に結論を言えば、あの時、企業だけが豊かになり、国民の生活が良くならなかったからである。選挙で最大の争点は国、時代に関わりなく、いつも国民の生活ぶりだ。米国では “Are you better off ?”とか“It’s economy, stupid.”とか、大統領選挙戦中に吐かれた有名な台詞がある。前者はレーガン大統領(その時点では候補)のもので、「あなたの暮らしは良くなりましたか?」という意味だが、彼は現職のカーター大統領の弱腰外交を批判することで支持を勝ち取ったのではない。国民の生活に対する不満に訴えたのだ。後者はクリントン氏のもので、意訳すれば「国民にとって大事なのは経済だ。そんなこともわからないのか、このばか者」という意味である。対抗する共和党のブッシュ大統領(父)はイラク戦争で見事な勝利を収め、国民的人気も高かった。そのブッシュには勝てないのではないか、と質問されたときの彼の答えだ。いつの時代も選挙の結果を左右するのは経済、なかんずく国民生活だ。

 安倍氏は7月には参議院選挙を迎える。経済を良くしておくことは勝利に向けての必須要件だ。彼は2006年9月に人気の高い小泉元総理から総理ポストを禅譲された。自ら勝ち取ったものではないから、翌年夏の参議院選挙はリーダーとしての資質を試す初めてのテストであった。結果は歴史的大敗となったが、この前後の日本経済をよく観察すると、なぜ選挙に負けたかだけでなく、今の状況が6年前と次第に似てきていることがわかる。いくつかデータを見てみよう。

2. 日本経済の絶頂期に崩壊した第1次安倍内閣
3. 絶好調でも良くならなかった国民生活
(図表のタイトルは以下)
【図3】営業利益
【図4】日本の株価
【図5】日本の賃金動向
【図6】非正規労働者の割合
【図7】労働分配率
【図8】日本の消費者物価(CPI)


繰り返すな、6年前の誤り (2) - 安倍新総理は賃上げに動くべきだ -
2013年1月30日(水曜日)

 3年間の民主党政権を含む5年の時間空白を挟んで再登場した第2次安倍内閣では、経済問題こそが国民の支持を勝ち取るポイントである、という教訓が一部生かされたように見える。彼は持論である安全保障や歴史問題よりも、国民が不満を持っている経済問題に焦点を当てた。特に金融政策を大胆に緩和することでデフレを脱却させるとともに、公共事業を通じて地方経済を活性化するという政策は、当面、為替や株価に顕著な影響を与え、経済に明るい期待を与えたことは評価されるべきだ。問題はこれからである。

1. 実は円安のメリットはゼロだ
2. 円安で輸出は増えない
3. 株価上昇のメリットは外国人投資家が独占
4. インフレ期待で消費は盛り上がらない
5. デフレ脱却の鍵は賃金の上昇
6. 分配率が下がると選挙に負ける
7. かつて自由民主党は経済界に賃上げ要請した

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【著書】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など



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