六義園 2015-12-09
かなしみ 谷川俊太郎
あの青い空の波の音が聞えるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまつたらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった
詩集『二十億光年の孤独』(創元社、1952年6月)より
谷川俊太郎さんは哲学者谷川徹三の息子。
1950年(昭和25年)3月に定時制高校を卒業し、文筆で生計をたてる。
卒業の年に創作した詩「二十億光年の孤独」が、父の縁故の関係もあり、詩人三好達治に絶賛され、この年12月の『文学界』に掲載されるという、詩人としては幸運なスタートをきっている。
詩「二十億光年の孤独」は私の高校時代の教科書に掲載されていた。
(ひところは吉野弘さんもよく採用されていたそうだ。)
この「かなしみ」は谷川俊太郎が、高校卒業前後に書いたもので、「透明な」に見られるように、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の影響を受けているとのこと。
「何かとんでもないおとし物を 僕はしてきてしまつたらしい」
というフレーズをどこかで見たのか、ずっと覚えていたが、その出典を知らなかった。
昨年からすこしづつ吉野弘さんの詩集を読み始め、その関連でつい先ごろ、このフレーズの出典を知った。
「何かとんでもないおとし物を 僕はしてきてしまつたらしい」というフレーズと、井上陽水『夢の中へ』の「探しものは何ですか 見つけにくいものですか」というフレーズとの類似性/親和性が面白い。
一方の喪失感と他方の模索感(こんなワードはないかな?)。
夢の中へ 井上陽水
探しものは何ですか
見つけにくいものですか
カバンの中もつくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか
それより僕と踊りませんか
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか
ウーウー ウーウー
ウーウー サア
休む事も許されず
笑う事は止められて
はいつくばって はいつくばって
いったい何を探しているのか
探すのをやめた時
見つかる事もよくある話で
踊りましょう 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか
ウーウー ウーウー
ウーウー サア
探しものは何ですか
まだまだ探す気ですか
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか
ウーウー ウーウー
ウーウー サア
ウーウー ウーウー
ウーウー サア
そのうちに見つかるから、そんなに深刻にならなくてもいいんじゃないか、
と陽水は言っている。
そうでも言わないと、人生、しんどすぎる(辛すぎる)、というのが本音だろう。
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