海の見える丘公園ローズガーデン 2016-05-21
*落伍 石垣りん
その晩、町が焼けたのです
いのちを
焼いた人も多勢ありました
戦争で。
空襲の余燼をおさえて
私共は焼木杭に札を立てました
「行く先、どこどこ」
そして立去りました
家を、暮しの寄りどころを失った多くの人たちが
あの風景が
ありありと眼に浮かぶのです
あのあとに復興したものは何なのか
私の落着き先はどこだったのか
ここか?
十年、
まがりなりにも屋根があり
たたみがあって
生き残った家族が五人
かろうじて暮してはいるけれど
ああ荒廃
眼に見えないものが
ここでは焼け爛れているのです
愛も
希望も
若さも
ない。
貧しさだけが木札のように立っている
その表に
私は、私の魂は
もう書きしるす行く先を知らない
(その晩
いのちを焼く人もあったのです
火の夜のことでした)。
詩集未収録(「行友会誌」1956年12月28日発行)
詩人36歳
句読点、改行の仕方に、詩人の神経が届いていて、
なんだかヒリヒリする詩だ。
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