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おでんやのいる風景 石垣りん
子供が背伸びしてのぞいている
屋台、
その顔に
おでんの湯気がけむる。
精神と名の付くものを
ことごとく煮え立つ鍋に向けて
目を輝かせている。
子供は指さす
ちくわ、こんにゃく、がんもどき
一本の串にさされ
手渡されるときの恍惚、
私はあの味におぼえがある。
心の町角に
欲望という名のおでんやがくると
ついあの味を思い出してしまう。
私がおでんやによらないのは
気取っているからではなく
ほんの少し
おこづかいが足りないからだ。
今日も
横目で通りすぎようとすると
「オイ、大臣の椅子」
などと言っている男がいる。
詩集未収録(1963年12月3日)
詩人43歳
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