2015年2月15日日曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(119) 「第18章 吹き飛んだ楽観論-焦土作戦への変貌-」(その3) : 「アブグレイブは反米抵抗勢力の温床となった。・・・辱めや拷問を受けた連中は今すぐにでも報復してやろうという気になった。誰がそれを非難できるというんだ?」

北の丸公園 2015-02-13
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シリア国境近く、アルカイム近郊の軍事基地(「タイガー」)内の刑務所では・・・
 イラク国内にはこのほかにも、CIA方式による「感覚遮断」を拘束者に施す施設が各地に点在し、・・・。もう一人の軍曹は、シリア国境に近いアルカイム近郊にある「タイガー」と呼ばれる軍事基地内の刑務所について語った。

 そこに収容されていた二〇~四〇人の拘束者は目隠しをされて手錠をかけられ、うだるような暑さの金属製の輸送用コンテナの中に二四時間閉じ込められた。「眠らせず、食料も水も与えなかった」と、この軍曹は証言する。感覚遮断の状態に置かれたあと、拘束者はストロボライトと大音響のヘビーメタル音楽を浴びせられたという

ティクリート近くの特殊部隊基地では・・・
 ティクリート近くの特殊部隊基地でもこれと似た手法が使われた。
閉じ込められる空間はさらに小さく、箱の大きさは縦横が各一・二メートル、奥行きは五〇センチと、大人であれば立つことも横たわることもできない。これはかつて南米南部地域で使われたものとそっくりだ。拘束者は感覚を極度に剥奪された状態で、長ければ一週間も閉じ込められた。拘束者の少なくとも一人は米兵から電気ショックの拷問を受けたとも証言しているが、米兵らはその事実を否定している。

報道されない事件:電気ショックを与えた罪で実刑判決
 だが、議論に上ることはほとんどなかったものの、米兵が実際に電気を使って拷問を行なったことを裏づける重要な証拠がある。
二〇〇四年五月一四日、二人の海兵隊員が一ヵ月前にイラク人拘束者に電気ショックを与えた罪で実刑判決を下されたが、これについてはほとんど報道されていない。米国自由人権協会が入手した政府報告書によれば、一人は「電気変圧器を使い(中略)拘束者の肩の辺りに針金を押し当て」、そのショックで「拘束者が”踊り出す”」まで使い続けたという。

アブグレイブ刑務所に拘束されたハジ・アリ(かつて地区長を務めたこともある)の場合
 ハジ・アリによれば、彼も頭巾をかぶせられ、箱の上に立たされて体のあちこちに電気コードを装着されたという。同刑務所の看守らはコードに電流は通さなかったと主張したが、アリはPBSのインタビューで「電気ショックをかけられたとき、目の玉が飛び出すかと思った」と語っている。

 他の何千人もの拘束者と同じように、アリは「誤認逮捕だった」と言われて無罪放免となり、トラックで運ばれて解放された。赤十字によると、米軍当局はイラクで拘束された者の七〇~九〇%は「誤認逮捕」だったと認めているという。

こうしたイラク人拘束者の多くが報復感情を抱いているとアリは言う。
「アブグレイブは反米抵抗勢力の温床となった。(中略)辱めや拷問を受けた連中は今すぐにでも報復してやろうという気になった。誰がそれを非難できるというんだ?」

第八二空挺部隊のある軍曹の話
 「そいつが善人だったとしても、俺たちの扱いのせいで悪人になっちまったわけだ」と、第八二空挺部隊のある軍曹は話す。この部隊が駐屯していたファルージヤ近くの米軍基地にある仮設刑務所はとりわけ残忍なことで知られ、イラク人からは「殺人マニア」と呼ばれていたが、当の兵士たちはそれを誇りにしていたという。

イラク人が管理する刑務所はもっと過酷
 アメリカは自らの目的遂行のために拷問を容認し、イラクで新たな警察組織を監督・訓練しようというまさにその出発点で、低劣な基準を設定してしまったのだ。

 二〇〇五年一月、ヒューマンライツ・ウォッチは、アメリカの監督のもとでイラクが運営する刑務所および収監施設において、電気ショックを含む拷問が「組織的」に行なわれていることを突きとめた。米軍第一機甲師団の内部報告によると、「電気ショックおよび首を絞める」拷問は、イラク警察やイラク軍兵士によって「自白を引き出すために常時使われている」という。

 またイラク人看守は、中南米諸国における拷問で常用された電気ショック用の牛追い棒も使用していた。二〇〇六年三月、『ニューヨーク・タイムズ』紙は「裸にされ、天井から吊るされた」ファラジ・マフムードという人物の体験を紹介している。「電気ショック棒を性器に当てられると体が壁に跳ね返った、と彼は言う」

『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』記者の従軍取材
 二〇〇五年三月、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』のピーター・マース記者は、ジェームズ・スティールが訓練にあたった特別奇襲部隊に従軍取材した。マースが訪れたサマラの元市立図書館は死の臭いが漂う刑務所に転用されており、建物の中には目隠しをされ手錠をはめられた者や、殴打されて血だらけになった者もいた。「血がしたたり落ちた跡」のある机も目にした。嘔吐する音や「正気を失った者や発狂しそうな者が出すような背筋のゾツとする」叫び声が聞こえたとマースは書く。また、「拘置所の中か建物の裏から聞こえてくる」二発の銃声もはっきり耳にしたという。

一般市民に恐怖心を植えつけるために意図的に残された拷問の痕跡
 二〇〇五年にはイラクでも、(エルサルバドルと)同様の脅しのメッセージを日常的に目にするようになった。イラク特殊部隊(通常は内務省と通じている)に拘束されたのを最後に目撃された人々が、その後無残な死体となって見つかるのだ。頭部に一発の銃弾の跡があったり、後ろ手に手錠をかけられていたり、なかには頭蓋骨に電気ドリルの穴が開いていることもある。

 二〇〇五年一一月の『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記事によれば、バグダッドの死体安置所には「毎週、何十体という遺体が一度に運び込まれ、なかには警察の手錠をかけられた死体も数多くある」という。金属製の手錠の多くは死体安置所で回収され、警察へ返却された。

イラク国営テレビ局アルイラキア(アメリカの資金により運営)の番組「正義によって裁かれるテロ行為」
 このシリーズは「エルサルバドル化」したイラク特殊部隊の協力を得て制作されたもので、釈放された拘束者たちはその制作の手口を次のように説明する。

 まず、たいがいは一斉襲撃によって手当たり次第に捕まえた人物に暴行や拷問を加え、なんらかの罪を働いたことを「白状」しないと家族に危害が及ぶと脅迫する(そんな罪は誰も犯していないことを弁護士が証明したものもある)。

 次にビデオカメラが持ち込まれ、拘束者の「自白」の様子 - 反乱グループの一員だった、盗みを働いた、同性愛者だ、嘘をついた、などなど - が録画される。イラク国民は毎晩、ひと目で拷問されたとわかる、あざだらけで腫れ上がった顔の人物が自白する様子を見せられるのだ。「この番組は一般市民にきわめて高い効果をもたらした」と特殊部隊のリーダー、アドナン・タビトはマース記者に語っている。

内務省の地下牢で発見された173人の拘束者
 「エルサルバドル・オプション」が最初にメディアで取り上げられてから一〇ヵ月後、・・・二〇〇五年二月、内務省の地下牢で一七三人のイラク人拘束者が発見される。拷問によって皮膚がむけた者や、頭に電気ドリルの跡がある者、歯を抜かれたり爪を剥がされたりした者もいた。解放された拘束者は殺された者もいたと証言し、内務省地下牢で拷問の末に死に至った一八人の名前を挙げだ - イラク版の「行方不明者」である。
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