2012年10月23日火曜日

寛弘2年(1005)4月~10月 源信が華台院で迎講を始める 道長が宇治郡木幡に浄妙寺三昧堂を建立

東京 北の丸公園 ハナミズキの紅葉
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寛弘2年(1005)
4月
・『栄花物語』「はつはな」に、この年に斎院御禊と賀茂祭使になった頼通の一行を、道長が桟敷から多くの公卿らと見物する場面で、一条大路の桟敷が記される。
「殿は、一条の御桟敷の屋長々と造らせたまひて、檜皮葺(ひわだぶき)、高欄(こうらん)などいみじうをかしうせさせたまひて、この年ごろ御禊よりはじめ、祭を殿も上(倫子)も渡らせたまひて御覧ずるに、今年は使の君の御車を、世の中揺(ゆす)りていそがせたまふ。」
賀茂祭(かもまつり、4月の中酉日に行なわれる)は、天皇が上下賀茂社に幣を奉ることを中心とする。
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4月
・藤原行成筆「陣定文」が作られる。
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4月15日
・この日の陣定で、上野介橘忠範は、前例に準じて、随兵(護身の兵)20人を持つこと、押領使を兼任することを申請して許可された。

陣定の議事録を「条事定文写(じようじさだめぶみうつし)」という。
陣定の様子を記した文書が伝来することは珍しいことであるが、この文書の執筆者が三蹟の一人藤原行成であったために伝来して残された

この日の陣定では、諸国条事について議論が交わされた。
諸国条事(諸国雑事とも)とは、受領国司が任命されるとほどなく、任国の懸案事項をあらかじめ太政官に上申し、裁定を受けておくことである。
そのうちの一人、上野介橘忠範は、前例に準じて、随兵(護身の兵)20人を持つことと、押領使を兼任することを申請して許可された。
押領使とは、内乱の鎮圧や盗賊を追捕する権限を持つ者のこと。
部内の武勇に優れた者を任命する場合と、国司が兼官する二つの場合があったが、この場合は後者である。
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4月30日
・この日の昼前、蔵人の宿所(控室)に盗人が入って物色中を発見されたが、月華門から紫宸殿前の広庭に飛びこみ、そのまま突っ走って日華門・宣陽門・春華門を抜けて逃走。
内裏を西から東へ横断したが、その間、門を守っている近衛も兵衛も何ら手を下さず叱責される。
2日後、こ盗人が右近という前掌侍の家に隠れているとの噂があり、家宅捜索を行なったが発見できなかったという。
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5月
・この月、仏師康尚、中宮彰子の御諷誦(ふじゆ)の時に金色薬師・十一両観音・彩色不動を造り始める。
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9月
・この月、源信は『往生要集』の新写本の作成を行成に依頼。のちの無量寿院の建立へつながっていく。
年末、在任1年半ほどで権少僧都を辞し、横川に籠り、華台院において迎講(むかえこう)を始める
童子たちが菩薩聖衆に美しく扮し、音楽や念仏に合わせて、西の華台院の阿弥陀像へ人々を導くという、来迎行道のパレードである。
来迎を絵画化でなく劇化したもので、今日でも練供養(ねりくよう)と称され、当麻寺や泉涌寺即成院などで行なわれている。
また華台院の丈六阿弥陀は、仏師康尚が造ったものであり、定朝にいたる仏像彫刻に与えた源信の影響も大きかったらしい。

かくして晩年の源信は地位や栄誉と無縁の生活を送り、『源氏物語』宇治十帖には、宇治川に身を投げた浮舟を救い祈る「横川の僧都」というイメージで登場する。
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10月
・道長、宇治郡木幡(こばた)に浄妙寺三昧堂を建立
道長は、前年に建立の地を定め、この年、藤原行成に鐘銘(大江匡衡作)を書かせ9月28日に鐘を鋳造。10月18日、行成は道長の命で南門と西門にかける浄妙寺額2枚を書し、後中書王具平(のちのちゆうしよおうともひら)親王が供養経の外題(がいだい)を書している。

19日供養当日には、昼のような月あかりの中、寅刻に出発、巳刻に鐘を打ち、「鐘の声、思ふがごとし」と道長は満足している。
藤原氏の公卿のほとんどが参会し、天台座主覚慶を証者、前大僧正観修を導師とし、供養僧百人という大規模な供養であった。
この日の願文と呪願文は式部大輔大江匡衡と菅原輔正が作り、藤原行成が書したもの、堂の仏像(普賢菩薩)を造ったのは仏師康尚であり、当時のオールスターキャストであった。
とくに匡衡の「左大臣の為に浄妙寺を供養する願文」は、当代を代表する博文作品として『本朝文粋』にも収められている。

木幡は、四神相応(ししんそうおう)の勝地(しようち)で、基経以来藤原氏の墓地であり、道長は、その供養の願文(がんもん)によれば、若いころから父兼家に従ってしばしば木幡の地を訪れ、その荒廃をみて涙を流したという。

『栄花物語』「うたがひ」には道長の思いとして、三昧堂建立の願意をのべている。
「いづれの人も、あるは先祖の建てたまへる堂にてこそ、忌日にも説経・説法もしたまふめれ。真実の御身を斂(おさ)められたまへるこの山には、ただ標(しるし)ばかりの石の卒都婆(そとば)一本ばかり立てれば、また詣(まい)り寄る人もなし。これいと本意(ほい)なきことなり」
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