ロイター
コラム:しぼむアベノミクス効果=ジェームズ・サフト氏
2013年 06月 7日 14:19 JST
[5日 ロイター] - 日本再生に向けたアベノミクスの試みが早くも力を失ってきた。これは世界中の株価に悪影響を及ぼすだろう。
安倍晋三首相の成長戦略への失望感から、日本の株価は急落した。
構造改革をベースに財政・金融刺激策をミックスするアベノミクスという野心的なカクテルへの信頼が失われれば、目を見張るような日本株の上昇が反転するのみならず、その他の地域で経済成長やリスク性資産を支えてきた流動性や刺激効果まで損なわれるだろう。
<どこで間違ったのか>
株価が足元で一段と下落したのは、安倍首相が構造改革の計画を披露しようと鳴り物入りで行った演説がきっかけだった。国民総所得(GNI)の年3%増を目指すという表題には具体的な数字が盛り込まれているが、そこに至る経路は漠然としている。成長戦略にはこのほか、国家戦略特区の新設や一般用医薬品のインターネット販売を解禁する新規則なども盛り込まれた。
これらは日本をシリコンバレーに生まれ変わらせる内容とは程遠い。
安倍首相はまた、新たな規則をめぐる協議は秋になると述べた。改革によって不利益を被る数多くの権益に対し、本気で切り込もうという熱意は感じられない。
投資家は過去8カ月間、日本の再生を急速に織り込んできただけに、金融市場の動きはとりわけ厳しいものとなった。しかし現実には、円安になりインフレ率が少しぐらい上がったとしても、日本は株価上昇を維持するためになお構造改革を必要としている。その構造改革は実現性が今や後退したように見え、相場反落に対する政府の反応はおぼつかない。
市場金利の急上昇も問題を引き起こし、日本の金融システムを構成する国債の大規模投資家に損失を引き起こす可能性を生じさせた。長期金利が上昇すれば、重債務を抱えた日本政府は税収が増える前に資金調達コストの増大に見舞われかねないため、連鎖的な問題もはらむ。
最後に、日経平均株価の下落と時を同じくして為替が円高に振れ、アベノミクスの中核、つまり日本の国際競争力を高めるという努力が蝕まれている。幾つかの状況証拠によると、日本企業は輸出価格の低下による利益の増加分を刈り取っているだけで、生産を加速しているわけではないため、円高はアベノミクスを揺るがすだけでなく日本株の保有を支えるテーマにもほころびを生じさせる。
<世界市場にも影響を及ぼす理由>
アベノミクスの信認失墜が日本にとって一大事なのは明白だが、他地域の投資家にとっても厳しい事態となる可能性がある。
第一に、突然の円高はキャリー取引を行う投資家を直撃するだろう。キャリー取引の歴史は古く、危険性もまた大きい。円安が進み日銀の国債購入により長期金利が押し下げられている間は、キャリー取引は順風満帆で、米国その他地域のリスク性資産の需要押し上げに一役買う可能性がある。しかしここ2週間というもの、そうした効果はあまり見られない。
米国株の強気相場をめぐっては、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和や米景気回復期待に視線が集中しているが、実際のことろ過去数四半期の強気相場はアベノミクスと固く結びついていた。積極的な緩和を打ち出した日銀は流動性を創出しただけでなく、東京から遠く離れた地域の投資家にもアニマルスピリットを喚起した。
<米投資家にはどう影響するか>
アベノミクスは失敗する定めだというわけではないし、日銀と安倍首相はすぐにはあきらめないだろう。そうだとしても、消炎剤のインターネット販売解禁やインターナショナルスクールの開設規制緩和といった成長戦略は、人口問題や経済的な課題克服に匹敵する取り組みには見えない。
アベノミクスへの信認後退は日本株の悪材料だが、米国株への打撃はずっと薄まったものになるだろう。日本市場が反転すれば、FRBが資産買い入れプログラムの縮小議論を進める可能性はさらに小さくなりそうだ。日本国債の売りが加速する場合にはなおさらだ。
そうなれば米国株にとって幾分か支援材料になる。円高が進んだ場合にも、米企業は売上高の減少を免れ、小幅ながら恩恵を得られる。
大きな悪影響も想定される。日本の経験から、量的緩和(QE)はうまく機能せず高い副次的コストを伴うという教訓を人々が得て、それを米国に当てはめた場合だ。その結果、FRBは雇用と需要が回復する前にQEを縮小しろという圧力が強まるなら、市場は極めて悲惨な時期に突入しかねない。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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