地震のメカニズムが分かりやすく解説されてる。
現代ビジネス
警告レポート 地球は巨大地震活動期に突入世界の、日本の「次はここが危ない!」
2012.05.18
活動期('04年以降の8年間)における巨大地震の発生状況
「活動期」だとされる'04年1月~現在の間に起きた巨大地震(M7.5以上)を図示している。下の「静穏期」の表と見比べると、発生数が格段に多くなっていることは一目瞭然だ。その数は、実に30件にものぼる 図)アトリエ・プラン(以下同)
4・11スマトラM8.6、
4・12メキシコM7.1、
4・17パプアニューギニアM7.0・・・
不気味に揺れ続ける地球。次の〝デンジャラス・ゾーン〟を専門家が読み解く!
地球規模で巨大地震が頻発している。今年4月以降に発生したM6.0以上の地震だけみても、4月11日にインドネシア・スマトラ島沖のM8.6の地震で死者5人が出たのをはじめ、12日にメキシコでM7.1、17日にチリでM6.5、同日にパプアニューギニア沖でM7.0、21日にインドネシア・イリアンジャヤ沖でM6.9。5月に入っても、2日にメキシコ南西部でM6.3といった具合で、ほとんど毎週のようにM7前後の不気味な揺れが続いている。
静穏期('68年から'76年の8年間)における巨大地震の発生状況 上の活動期と同じ期間を、静穏期の中で任意に取り出し('68年1月~'76年4月)、比較してみた。巨大地震の発生は、わずか7件と少ない
本誌は昨年5月6日号で、「地球は巨大地震活動期に突入した」とするレポートがアメリカ地震学会で発表されたことを報じた。それは米地質調査所(USGS)のチャック・バフェ博士による、
「M7以上の大地震には発生しやすい活動期がある。まさに今がその時期にあたる。6年以内にM9クラスの超巨大地震が世界のどこかで起こる確率は63%」
との戦慄すべき報告だった。博士は、1900年以降の世界のM7以上の地震記録を分析し、巨大地震が「'50~'65年」と「2004年以降」の2つの期間に集中していることを明らかにした。その研究を裏付けるような、このところの巨大地震の集中ぶりなのである。本誌は、改めてバフェ博士に話を聞いた。
「近ごろの状況を見ても、やはり地球規模で地震が活発化していることは間違いありません。スマトラで'04年に起きたM9.1、'05年のM8.6の地震を皮切りに、地球は本格的に新たな活動期に突入しました。'10年のチリ地震(M8.8)、'11年の東日本大震災(M9.0)、今年4月のスマトラ沖地震(M8.6)の発生が、その事実を証明しています。この7年半の間に、M8.6以上の地震が5つ起き、うち2つはM9.0以上でした。それ以前の40年間が静かだったことを考えると、重要な変化が起きたことが分かります」
巨大地震は群れをなす
1ページの上下の図は、活動期と静穏期の巨大地震の発生状況を示したものだ。これを見れば、近年の頻発ぶりが一目瞭然だ。米カリフォルニア大デイビス校の地震学者ジョン・ランドル教授も同調する。
「確かに、いま世界は巨大地震活動期に入っていると思う。『ランダムに起こっているだけだ』との反論もあるが、私はそうは思わない。M7.0以下の地震はこの20年を見るとコンスタントに発生しているが、M8.6以上の巨大地震は明らかにグループとなって起きている。1900年以降、M8.6以上の大地震は'50~'65年の間と'04年以降に集中している(上のグラフ参照)。大地震が、ある時期に群れをなして起こる証拠と言える。これは偶然ではない」
ランドル教授は'10年7月30日付の自身のブログで、日本で早晩、大地震が起きると予測し、仙台をその可能性のある都市として挙げていた。それだけに彼の分析には説得力がある。ちなみに彼は「メキシコやカリフォルニア南部でM7クラスの地震が、ここ数年多発している。カリフォルニアやネバダなどでM7以上の地震が起きるリスクが、この30年間で最も高まっている」とも話している。
巨大地震が集中するメカニズムについては不明な点も多いが、琉球大学名誉教授の木村政昭氏は「現在、世界的に海嶺の動きが活発化していることが原因ではないか」と推測する。海嶺とはプレートとプレートの境界に位置する大規模な海底山脈のことだ。プレートは海嶺で形成され、海溝に向かって移動し、沈み込んでいく。以下、左ページ上の図を参照しつつ、木村氏の解説を聞いていこう。
「地震活動期の開始は私としては1950年代からだと考えている。その頃から特に活発化しているのが、日本のはるか東、南米大陸の西に位置し、太平洋プレートとナスカプレートなどとの境界にある東太平洋海嶺です。この海嶺がプレートを西や東に大量に押し出して、その先のプレートと激しくせめぎ合うことになった。結果、各地で巨大地震が起きているのです。'50年代のカムチャッカ半島(M9.0、M8.2)、'60年のチリ(M9.5)、'64年のアラスカ(M9.2)、'07年のマリアナ諸島(M7.5)、'10年の硫黄島近海(M7.8)。昨年のニュージーランド、三陸沖(東日本大震災)もそうでした。日本列島の東側には南北に長い海溝があり、プレートの沈降の影響を強く受けるのです」
実は、東日本大震災の前には、別の海嶺の活発化を示す現象もあったという。
「ユーラシアプレートと北米プレートの境界に位置する大西洋中央海嶺は、アイスランドの中央を南北に貫いている。同国の火山は'10年に大噴火しているのですが、その噴火は海嶺に影響されて起こったもの。これは大西洋中央海嶺が急速に活発化して、ユーラシアプレートを東へ押し出す力となっていることを示している。先述のように、太平洋プレートは東太平洋海嶺の動きによって西側への力が強まっており、ユーラシアプレートの力が伝わり東へ押される北米プレートとの境目にあたる三陸沖で、超巨大地震が起きたのだと考えられます」(木村氏)
では、これから危ないエリアはどこなのか。東京大学地震研究所の古村孝志教授は、「地震活動期」という考え方自体には否定的だが、巨大地震が起こる可能性が高い地域については、こう指摘する。
「危険視される地域は例えばチリ。過去に観測史上最大のM9.5クラスの地震が起きた彼の地は、この先も高い地震リスクを背負うでしょう。チリで起これば、日本にも津波の影響がある。'60年のチリ地震の際には日本にも津波が襲って、142人が亡くなっています」
一方、前出の木村氏は、やはり近年のプレートの動きが手がかりになると語る。再び上の図をご覧いただきたい。
「太平洋プレートの西側の活動が活発化しているのは厳然とした事実です。溜め込んでいるプレート間のストレスを全部出し切ってしまわないと、太平洋プレートは大陸の下に潜っていかない。太平洋プレートの境界で、しばらくのあいだ大きな地震が起きていないエリア、つまり、溜められたストレスが抜けていない地帯で超巨大地震が起こりかねません」
本当に危険なエリア
これらを踏まえたうえで、木村氏はまず、「ミャンマーからネパールにかけては、長いあいだ地震がなく、危険だ」と見る。インド・オーストラリアプレートでは、スマトラで巨大地震が多発しているものの、ミャンマー~ネパールの地帯には空白域があるのだ。そして日本では、「伊豆から小笠原諸島にかけては長いあいだストレスが抜けていないので、特に警戒すべきだ」と語気を強める。
日本こそトップクラスの危険地帯であることは専門家の意見が一致するところだ。
『活動期に入った地震列島』などの著書がある元京都大学総長の尾池和夫氏は、「西日本は阪神大震災の後、およそ50年続くと言われる地震活動期に入った。そのうえ、日本列島全体でも数百年規模の活動期に突入しており、危険度は高くなっている」と見る。氏が発生を警戒するのは、静岡・御前崎沖から高知・足摺岬沖まで延びる海溝「南海トラフ」を端緒とした地震だ。
「南海トラフの巨大地震は20~30年以内に必ず起こる。トラフは活動期と静穏期を繰り返している。'48年のM7クラスの福井地震から'95年の阪神大震災までの間が静穏期。再び活動期に入った現在では、東海・東南海・南海が連動した地震が起こると、M9.1にも達するという予測もある。南海トラフに内陸が押されて内陸の活断層が動くケースも考えられるが、そちらは直下型だから非常に怖い。関西では京都、滋賀、奈良、和歌山は活断層の上にあるので特に危険だ」
前出の古村教授も〝三連動地震〟を警戒する。
「1855年の安政の大地震では東南海・東海が発生した30時間後に南海が起こりました。1707年の宝永地震では3つ同時です。実は3地域の地震はバラバラに来るのではなく一気に来るのが通例なのです。それは100~150年周期で起きると言われていますが、1944年の東南海地震、'46年の南海地震以来は70年近くも起きていない。3つが連動する〝いつものパターン〟が来る日は刻一刻と近づいているのです」
さらに首都圏が巨大地震に見舞われる危険も盛んに指摘されている。武蔵野学院大学特任教授である地震学者の島村英紀氏が言う。
「首都圏にはプレートが4つももぐり込んでおり、世界でも類を見ない危険な地帯。江戸時代の始めから幕末までの約250年間で、M7程度の被害をもたらす地震が30回も起きている。ところが、1923年の関東大震災以降は、M7どころか震度5の地震が3回しか発生していない。首都圏を直撃する地震は近づいているのです。東京都が新たに想定した死者数(4月18日公表)は約1万人ですが、これは津波による犠牲を含めていない。私は死者4万人以上にのぼると思います」
巨大地震活動期に生きる我々の正念場は、むしろこれからなのかもしれない。
「フライデー」2012年5月25日号より
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