2012年4月15日日曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン-惨事便乗型資本主義の正体を暴く』を読む(1)



ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン-惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の邦訳が昨年9月に刊行された。

この本をじっくり読み込もうと、それなりに意気込んで私家版読書ノートを作ることにした。
何やかやとあるので、ひょっとすると1年近くかかるかもしれないけど。

まず、
「訳者あとがき」より作者ナオミ・クラインと本書のついての概観


本書は2007年に出版されたNaomi Klein著『The Shock Doctrine : The Rise of Disaster Capitalism』 の全訳。著者の第3作で、30ヶ国以上で翻訳・出版されている。
デビュー作は、2000年の『No Logo : Taking Aim at the Brand Bullies』(邦訳『ブランドなんか、いらない-搾取で巨大化する大企業の非情』)。これで、一躍反グローバリゼーションの語り部となる。
第2作は、2002年、短編エッセイを集めた、『Fences and Windows : Dispatches from the Front Lines of the Globalization Debate』(邦訳『貧困と不正を生む資本主義を潰せ-企業によるグローバル化の悪を糾弾する人々の記録』)。


著者が本書で徹底して批判するのは、シカゴ大学の経済学者ミルトン・フリードマン(1967年にノーベル経済学賞受賞)と彼の率いたシカゴ学派の影響のもと、1970年代から30年以上にわたって南米を皮切りに世界各国で行なわれてきた「反革命」運動である。


それは、社会福祉政策を重視し政府の介入を是認するケインズ主義に反対し、いっさいの規制や介入を排して自由市場のメカニズムに任せればおのずから均衡状態が生まれるという考えに基づく「改革」運動であり、その手法をクラインは「ショック・ドクトリン」と名づける。


「現実の、あるいはそう受けとめられた危機のみが真の変革をもたらす」というフリードマン自身の言葉に象徴されるように、シカゴ学派の経済学者たちは、ある社会が政変や自然災害などの「危機」に見舞われ、人々が「ショック」状態に陥ってなんの抵抗もできなくなったときこそが、自分たちの信じる市場原理主義に基づく経済政策を導入するチャンスだと捉え、それを世界各地で実践してきたというのである。


(略)


フリードマンが提唱した過激なまでの自由市場経済は市場原理主義、新自由主義などとも呼ばれ、徹底した民営化と規制撤廃、自由貿易、福祉や医療などの社会支出の削減を柱とする。


こうした経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利害と密接に結びつくものであり、貧富の格差拡大や、テロ攻撃を含む社会的緊張の増大につながる悪しきイデオロギーだというのがクラインの立場である。


自由市場改革を目論む側にとってまたとない好機となるのが、社会を危機に陥れる壊滅的な出来事であることから、クラインは危機を利用して急進的な自由市場改革を推進する行為を「ディザスター・キャピタリズム」と呼んでいる。これまでこの語は「災害資本主義」と訳されることが多かったが、「ディザスター」は自然災害だけでなく人為的な戦争やクーデターも含む語であることを踏まえ、より意味を鮮明にするために、本書では「惨事便乗型資本主義」と訳した。


ショック・ドクトリンが実際に適用された例として、クラインはピノチェト将軍によるチリのクーデターをはじめとする七〇年代のラテンアメリカ諸国から、イギリスのサッチャー政権、ポーランドの「連帯」、中国の天安門事件、アパルトヘイト後の南アフリカ、ソ連崩壊、アジ経済危機、9・11後のアメリカとイラク戦争、スマトラ沖津波、ハリケーン・カトリーナ、セキュリティー国家としてのイスラエル・・・と過去三五年の現代史を総なめにするごとく、広範囲にわたるケースを検証していく。


(略)


自由と民主主義という美名のもとに語られてきた「復興」や「改革」や「グローバリゼーション」の裏に、人々を拷問にかけるに等しい暴力的なショック療法が存在していたことが臨場感あふれる筆致で語られており、読者を憤然とさせずにはおかない。


(略)


著者ナオミ・クラインは1970年、ベトナム戦争に反対してカナダに移住したユダヤ系アメリカ人の両親のもとにモントリオールで生まれた。
現在はトロント在住で、ジャーナリスト、作家として活躍するほか、活動家としての一面も持つ。
トロント大学時代に大学新聞に寄稿したことからキャリアをスタートし、英『ガ-ディアン』、カナダ『グローブ・アンド・メール』の二紙のほか、『ニューヨーク・タイムズ』紙や雑誌『ネーション』『ミズ』など数多くの媒体に記事を発表している。
映像作家で英語版アルジャジーラのニュース番組司会者でもある夫のアヴィ・ルイスとともに、アルゼンチンの生産設備占拠運動を記録した『The Take』(2004)など、ドキュメンタリー映画の制作も手がけている。
新自由主義批判にとどまらず、環境汚染、気候変動、人種間題、組合潰し……など多岐にわたる問題について精力的に発言を続ける彼女の活動の一端は、自身のホームページ(http://naomiklein/org/main)やフェイスブック、ツイックー、あるいはニューヨークの独立系メディア(デモクラシー・ナウ!)の日本語版サイト(http//democracynow.jp/)でも知ることができる。


(略)

目次で凡その構成がわかる。

ショック・ドクトリン
-惨事便乗型資本主義の正体を暴く
                      ナオミ・クライン
                                           (幾島幸子・村上由見子)
THE SHOCK DOCTRINE
   THE RISE OF DISASTER CAPITALISM
                                                NAOMI KLEIN

序章 ブランク・イズ・ビューティフル
  -三〇年にわたる消去作業と世界の改変-

第一部 ふたりのショック博士-研究と開発
第1章 ショック博士の拷問実験室
  -ユーイン・キヤメロン、CIA、
    そして人間の心を消去し、作り変えるための狂気じみた探究-
第2章 もう一人のショック博士
  -ミルトン・フリードマンと自由放任実験室の探究-

第二部 最初の実験-産みの苦しみ
第3章 ショック状態に投げ込まれた国々
  -流血の反革命-
第4章 徹底的な浄化
  -効果を上げる同家テロー
第5章 「まったく無関係」
  -罪を逃れたイデオローグたち-

第三部 民主主義を生き延びる-法律で作られた爆弾
第6章 戦争に救われた鉄の女
  -サッチャリズムに役立った敵たちー
第7章 新しいショック博士
  -独裁政権に取って代わった経済戦争ー
第8草 危機こそ絶好のチャンス
  -パッケージ化されるショック療法-

第四部 ロスト・イン・トランジション
  -移行期の混乱に乗じて-
第9章 「歴史は終わった」のか?
  -ポーランドの危機、中国の虐殺-
第10章 鎖につながれた民主主義の誕生
  -南アフリカの束縛された自由-
第11章 燃え尽きた幼き民主主義の火
  - 「ピノチェト・オプション」を選択したロシアー
第12章 資本主義への猛進
  -ロシア問題と粗暴なる市場の幕開け-
第13章 拱手傍観
  -アジア略奪と「第二のベルリンの壁崩壊」-

第五部 ショックの時代-惨事便乗型資本主義複合体の台頭
第14章 米国内版ショック療法
  -バブル景気に沸くセキュリティー産業-
第15章 コーポラティズム国家
  -一体化する官と民-

第六部 暴力への回帰-イラクへのショック攻撃
第16章 イラク抹消
  -中東の”モデル国家”建設を目論んで-
第17章 因果応報
  -資本主義が引き起こしたイラクの惨状-
第18章 吹き飛んだ楽観論
  -焦土作戦への変貌-

第七部 増殖するグリーンゾーン - バッファーゾーンと防御壁
第19章 一掃された海辺
  -アジアを襲った「第二の津波」-
第20章 災害アパルトヘイト
-グリーンゾーンとレッドゾーンに分断された社会-
第21章 二の次にされる和平
  -警告としてのイスラエル-
終章 ショックからの覚醒
  -民衆の手による復興へー
訳者あとがき
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