作家池澤夏樹さんの原発に関する発言
「次の選挙で候補者一人一人に原発に対する姿勢を聞いて投票」して、
「日本の電力を変え」ようと主張。
結局、そんな手段しかないのかな、と思わないでもないが、その前に、大江健三郎さんや、柄谷行人さんのようなやり方もあるよな、とも思う。
それはそうとして、原発に関する池澤さんの個々の指摘には関心させられるものが多い。
以下、10月4日付け「朝日新聞」(夕刊)より
以前に取り上げた池澤さんの主張はコチラ
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(見出し)
■間違いだらけの電力選び 原発 一票で意思表示を
(コラム内容)
野田首相が国連で「原発の安全性を世界最高水準に高める」と演説した。
まだそんなことを言っているのかとあきれかえる。
日本の原発の安全性はなにも「世界最高水準」である必要はない。
世界で何番目だろうがかまわない。ただ安全であればいいのだ。
安全性に自信がないから大袈裟な言いかたを持ち出してごまかす。
この言い回しは、3・11以前の電力業界の姿勢をそのまま引き継ぐものだ。
首相が代わって、脱原発に対する国の方針は明らかに後退した。推進派の巻き返しなのだろう。
国際社会という場で考えるならば、我々は恐ろしく恥ずかしいことをしてしまった。
事故を起こして大量の放射性物質を大気中と海水の中に放出したのだ。
この事実に対して、野田氏の演説は反省の言葉として誠意が感じられるだろうか?
原発の輸出は倫理的に許されるだろうか?
世界一と言えば、日本は世界で最も地震と噴火と津波の多い国である。
いくら形容句を重ねても安全な原発はあり得ない。
軽い言葉に頼った結末がフクシマだったのではないか。
子犬が室内で粗相をしたら、その場へ連れて行って、鼻面を押しっけ、自分が出したものの臭いを嗅がせて頭を叩く。
お仕置きをして、それはしてはいけないことだと教える。そうやって躾けないかぎり室内で犬を飼うことはできない。
我々はこの国の電力業界と経済産業省、ならびに少なからぬ数め政界人から成る原発グループの首根っこを捕まえてフクシマに連れて行き、壊れた原子炉に鼻面を押しつけて頭を叩かなければならない。
環境省は、フクシマの事故による放射性物質の除染と汚染瓦礫の処理には少なくとも一兆数千億円の費用がかかると言っている。この先では更に数兆円を要するとも言う。
「除染」というのは一九九九年の東海村の事故を機に一般化した言葉である。
「汚染」を「除く」という意味だろうが、半減期の決まった放射性物質の汚染がどうやったら除けるのか。ただ移動させるだけの「移染」ではないのか。
専門家はこの除染にかかる費用を、福島第一原子力発電所が開設以来生み出してきた電力総量の値段の上に乗せた上で、その電力が一㌔ワット時あたりいくらになるのか計算していただきたい。
それでも原発の電気は安いか?
問題はコストだけではない。
「放射能」は不安なのだ。どこでどれだけ被曝したか自分ではわからない。将来、何かの病気にかかった時に、それはあの原発事故に由来するものではないか、どこかで被曝していて、それ故に寿命を不当に縮められたのではないかと疑う。東日本の多くの人たちがこの先そういう思いで生きてゆく。
日本の電力業界はとても不健全な育ちかたをした。
同じ時期に同じように成長した自動車と比べてみようか。
自動車はオープン・マーケットだった。製品に対する批評と批判はいくらでもできた。毎年刊行されていた徳大寺有恒の『間違いだらけのクルマ選び』はその象徴だった。その前提として自動車は他の消費財と同じく買い手が選べるということがあった。不人気なものは淘汰されて市場から消える。
電力はそうはいかない。
地域ごとの独占で、しかも発電と送電を同じ会社がやっているのだから、チョイスの余地はまったくない。
昔、沖縄に引っ越した時、これで原発の電気を使わないで済むと思った。あの島に原発がないのは市場として小さすぎるからだが。
電力とはどういうビジネスか。
供給が絶たれると困る、という点ですでに消費者は弱い立場に置かれている。
それが独占企業だと、コスト計算など売る側の思うまま。経費を積み上げて一定の利益を上乗せするという、社会主義経済のような手法が適用する。
その周辺に利を求める政治家が群がる。みんな自分の取り分を確保するための屁理屈を振り回している。
先日会ったドイツ人の友人はかつて原子力の研究者だったのだが、ドイツでも原発はまるで造幣局だと言われていたと話してくれた。それほど着実に利を生む。
そのドイツはフクシマの直後、速やかに脱原発を決めた。ミュンへンからシュトゥツトガルトまでの汽車の窓からメガソーラー(大規模太陽光発電所)をいくつも見た。大きな建物の屋根ごとにソーラーパネルが設置してある。スペインでは風力発電による電力が総発電量の二十一パーセントになったという。
どうやって日本の電力を変えるか。
簡単なことだ。
次の選挙で候補者一人一人に原発に対する姿勢を聞いて投票する。
官僚や産業界がどう抵抗しようが、選挙結果は動かしようがないから。 (作家)
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確かに、放射性物質をたれ流す粗相をしたのだから、その粗相がどんなものか、粗相をした人たちは、その粗相の現場で「頭を叩かれ」なければ、また同じ粗相をやるかもしれない。
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