大江健三郎さんの「朝日新聞」連載コラム、「定義集」が初めて原発問題のみをテーマにした。
10月19日付けの「朝日新聞」
大江さんもさすがに、原発=核抑止論には「ドキリ」としたという。
一つは、先に私も扱った御歳85歳の読売新聞主筆の主張
(「主筆は85歳になっているはずだが、いまだに中二病だ」小田嶋隆をご参照下さい)
(新聞社内で「トノ、御ランシンを」と言う人は一人もいないのだろうか?とふと思う)
もう一つは、大江さんは「おなじみの伏し目の憂い顔で威嚇する政治家」と言われるが、
私はちょっと下品に「娘さんが無事東京電力に入社された政治家」と言う、自民党の政治家
彼らが、期せずしてかどうか、ほぼ同じタイミングで「原発=核抑止力」を展開した。
小田嶋さんは、
****************以下引用
「君らは色々言うけどさ、原発を持ってるとそれだけで周辺国を黙らせることができるんだぜ」
という、このどうにも中二病なマッチョ志向は、外務官僚や防衛省関係者が、内心で思ってはいても決して口外しない種類の、懐中の剣の如き思想だった。
が、一方において、中二病は、彼らの「切り札」でもあったわけだ。
なんという子供っぽさだろう。」
****************
という。
確かに、
《・・・一九六九年に外務省の外交政策企画委員会が作成した『わが国の外交政策大綱』が
「核兵器については、NPT(核不拡散条約)に参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器の製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」
との考え方を示している・・・》
ということがあったらしい。
さて、大江さんはというと、
まず、抑止力という考え方は
「こちらの攻撃能力で威嚇して、相手の攻撃を思いとどまらせることです。
事の性格上、すぐにも態勢は逆転して、危険きわまりない巨大なイタチごっこが続きます。」
と、抑止力という考え方そのものを否定した上で、
「この致命的な両刃の剣を手にすることについて、いつ国民の合意を見たのでしょうか?」
と「原発=核抑止力」論の民主主義的思想、手続きの欠落を批判している。
*
*
以下に、原文を抜粋して引用する。
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定義集 大江健三郎
(見出し)
【原発が「潜在的核抑止力」とは】 前例なき民主主義無視の論
(記事)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(前略)
《日本は・・・核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ》読売新聞、社説9・7
《原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」になっている・・・原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる・・・》石破茂・自民党政調会長(当時)、『サピオ』10・5
私は両者ともの「潜在的な核抑止力」「核の潜在的抑止力」という用語法に(それがいかにもフツウの言い方のように使われているのに)ドキリとしたのです。
核抑止という思想は、冷戦時に始まり、その終結の後も、厄介な超大規模の遺産のかたちで残る核兵器を積み上げています。
この十年、欧米で、当の政策推進者だった大物らの転向宣言が続きましたが、実体は変わりません。
抑止、deterrenceは、こちらの攻撃能力で威嚇して、相手の攻撃を思いとどまらせることです。
事の性格上、すぐにも態勢は逆転して、危険きわまりない巨大なイタチごっこが続きます。
「核の潜在的抑止力」というのが、この国の原発でいつでも原爆が作れると誇示することなら、原発への国籍不明のテロリストによる攻撃への防衛が緊急の課題となるなかで、東アジアの緊張はその方向へも高まっているのか。
さきの論客たちが、その効力を信じる「潜在的」な力を、いつ・どのように「顕在化」させる戦略を考えているかは不明ですが。
今度の大事故によって、原発の建設時にさかのぼり、今日の東電・政府の情報開示の仕方にまで、いかに民主主義の精神が欠落しているかを、私らは思い知りました。
しかしこの抑止論ほど徹底した民主主義の無視は、例がなかったのじゃないでしょうか?
あまりにも正直に、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになると、おなじみの伏し目の憂い顔で威嚇する政治家は、この致命的な両刃の剣を手にすることについて、いつ国民の合意を見たのでしょうか?
・・・・ ウェブサイト「核情報」の田窪雅文氏による「原子力発電と兵器転用」から。石橋克彦編『原発を終わらせる』(岩波新書)
《・・・再処理工場の製品プルトニウムはそのまま核兵器に使える。》
・・・・・略
《・・・。例えば、一九六九年に外務省の外交政策企画委員会が作成した『わが国の外交政策大綱』が「核兵器については、NPT(核不拡散条約)に参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器の製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」との考え方を示していることなどが注目されてしまう。・・・》
・・・・・・・略
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